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ソードアート・オンライン〜Another story〜
GGO編
第210話 救えた命
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た。
ただただ、呆然と言葉を繰り返す詩乃の斜め前で、明日奈と玲奈、そして 里香は立ち上がった。店の奥に見えるドアへと歩いて行って、ゆっくりと扉を開いた。
その奥から、誰かが出てきた。女性――30歳くらいだろうか。髪はセミロング。化粧は薄めて服装も落ち着いている。OLと言うよりは、主婦のイメージの方が近い。
その印象を裏付けるのは、小さな足音が続けて響いたことにあった。女性の後ろから、まだ小学校前だと思える女の子が走り出てきたのだ。……顔立ちもよく似ていることから、きっと親子だろう事は判った。
だけど、それらのことを見て取っても、詩乃の戸惑いは深まるばかりだった。なぜなら、親子が誰なのか、まるで判らないからだ。東京に来てからはもちろん、故郷の町でもあったことはないと思える。
その女性は、詩乃を見て まるで 泣き笑いの様な表情をして、ゆっくりと一礼をした。……隣の女の子も続けてぺこりと頭を下げた。随分と長くそのままだったけれど、里香や明日奈、そして玲奈に促されて、詩乃の座っているテーブルの前にまでやってきた。
黙って見ていたエギルも、ウェイターとしての仕事を全うする。カフェオレやミルクを差し出し、戻る。明日奈と玲奈は、2人が座る椅子を用意する。
何が何やら判らない。……こうして間近で見ても、誰なのかわからない。そして、隼人の言っている《会うべき人》だと言うのかも判らなかった。何かを勘違いしているのではないか……、と詩乃の脳裏で思った時だ。
―――――いや。
どこか、どこかで出会ったことがある? 記憶のずっと奥。さらに奥。源泉の深層域。ちりっ と小さな火花が弾けている。赤の他人だと思うのに、何故かその感覚だけは拭えなかった。
その時だ。女性が再び深々と一礼をした後に、かすかに震えが帯びた声で、名乗った。
「はじめまして。朝田……詩乃さん、ですね? 私は大澤祥恵と申します。この子は瑞恵、4歳です」
名前にも、やはり聞き覚えはなかった。それでも まだ記憶の奥深くでは、あの火花が疼き続けている。挨拶を返すことも出来ずに、ただ目を見開き続ける詩乃に向かって、祥恵と言う母親は大きく一度息を吸ってから、はっきりとした声で言った。
「……私が東京に越してきたのは、この子が生まれてきてからです。それまでは、……市で働いていました。……職場は………町三丁目郵便局です」
「あ…………」
詩乃は、その言葉を訊いて、全てを理解した。自分の唇から、かすかな声が漏れる。
そう、それは、――その郵便局は、まさしくあの場所だ。
5年前、詩乃が母親と一緒に訪れ、そこで人生を大きく変えてしまうことになる事件に遭遇した、あの小さな、なんの変哲もない、町の郵便局。
あの
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