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逆さの砂時計
オペラセリアのエピローグ 3
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本当に変な悪魔ね。貴方、何故そんなに人間が好きなの?」
 「は?」
 「慰め方が人間ぽい。人間を理解していなければ、そんな風には言えないわ」
 なんで今のでそうなる。慰めてねぇよ! 地味に前向き思考かお前!
 「……クロスツェルには幸せになって欲しいけど、私では多分無理。だから、彼が生きている間はロザリアに体の主導権を預けるわ。貴方にもお願い。彼を見守って」
 「アイツは知らん。どうせ、力での延命を拒否ったんだろ? 自分で死ぬとか言うヤツを護ってやる義理は無い」
 俺と再契約する時、アイツは自分で念を押しやがったからな。
 『貴方の力を私に貸し与えてください。私は自分の総てを……存在を貴方に提供します。然るべき時に然るべき対処を。この契約は、ロザリアを取り戻したと確実に言える状況になるまでです』
 人間の常識に囚われなければ、クロスツェルがアリア並みに永く生きる方法はたくさんあるんだ。
 だがアイツは、自己責任だからと言って全部棄てた。
 ロザリアにもう一度会う為だけに、自分の命も棄てたんだ。
 そんな我が儘に付き合う必要が何処にある。
 「……クロスツェルがとても好きなのね。でなければ不機嫌になる所じゃないわ」
 「はあ? だから、気持ち悪ぃ物言いは止めろ。ロザリアに代わるならとっとと代われ! へし折るぞ、翼!」
 「しないでしょう、貴方は」
 翼を広げたアリアがふわりと翔んで、正面から俺の首に両腕を回す。
 顔を覗いて……って、お前ら母娘は行動がそっくりだな、オイ。
 「……ありがとう。もしもいつかその日が来たら……必ず貴方の手で殺してね。不屈の支配者、束縛のベゼドラ」
 軽い口付けの後、艶やかな微笑みを浮かべ……俺に預けた体が唐突に落ちかけた。
 咄嗟に両手で支えれば、意識を引っ込めたそれはもう、ロザリアの幼さを残した容姿に変わってる。
 ついでに翼が消えたのは、アリアの仕業か? 多少の力を残して殆ど封印したな。
 髪も肩に掛かる長さだ。クロスツェルの教会に居た頃を思い出す。
 「ロザリア……」
 ほら見ろ。全然違うじゃないか。
 表層意識をロザリアにしただけで、眠る顔すら別人だ。
 閉じていてさえ気が強そうな目元も、浮浪時悔しさや怒りを堪えて耐えて引き結んできたのだろう唇も。
 何もかもアリアなんかとは違う。
 「やっと会えた」
 簡単に折れそうな体を強く抱き締めて、首筋に顔を埋める。
 とくんとくんと響く生命の音。柔らかな熱。穏やかな吐息。ロザリアの、形。
 「……今の内なら有効だよな」
 クロスツェルの野郎に邪魔されない絶好の機会。マリアも離れた。この体は今、俺の自由だ。
 白い首筋に牙を立……
 「……てめぇっ……二度と触るんじゃねぇって言っただろ、この黒い駄犬がぁーッ!!」

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