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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
ささやかな願い 〜 ユスティーナ 〜
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グラム。人類史上最大の征服者、神聖不可侵なる銀河帝国皇帝、獅子帝ラインハルト。……見たかったな、覇者となった彼を見たかった……。そして共に歩みたかった」
詠嘆するような口調だった。切なさが私にも伝わってくる。
「……もう一度人生をやり直せたら、そう思っていらっしゃいますの?」
夫がほんの少し私を見つめ首を横に振った。
「そんな事は思っていないよ。もしやり直しても私は何処かでローエングラム伯に付いていけなくなったと思う。彼の流す血の量に耐えられなくなった筈だ。私には彼のように戦いを楽しむ事は出来ない。流れる血の量に無関心ではいられない」
「……」
「多分彼の元を離れたか、或いは耐え切れずに反逆を起こしたか。一番可能性が高いのは彼の側近によって反逆者に仕立て上げられ殺される事だろう」
不思議だった。夫はまるで実際にそれが起きた事であるかのように話をしていた。そういう夢でも見たのだろうか。
「何故分かりますの?」
私が問い掛けると夫は私を見て“分かるよ”と言った。笑みを浮かべている、悲しそうな笑み……。
「彼は英雄で私は凡人だから」
凡人? 夫が? 夫が私を見ておかしそうに笑い声を上げた。多分私は間抜けな顔をしていたのだろう。
「酷いですわ、私をからかったの?」
夫は猶も笑いながら“違うよ”と言った。
「本当の事だ。彼は英雄で大勢の人間が死ぬ事、苦しむ事を平然と受け入れる事が出来た。私には無理だ、そんな事は出来ない」
夫はもう笑っていない。
「非難しているんじゃない。そういう種類の人間が必要とされる時も有る。世の中が混乱し不満が満ち溢れている時、そういう人間が現れ多くの犠牲を払って世の中を変える。普通の人間なら何処かで怯み挫折してしまうだろう。それを躊躇う事無く出来る、英雄と言われるわけだ」
皮肉かと思ったが違った。夫はまた雪を見ている。確かに夫は英雄ではないのかもしれない。夫には人の死を平然とは受け入れられない。例えそれが反乱軍の兵士の死だとしても。シャンタウ星域の会戦の後、夫は苦しみながらも前に進むと言っていた。
「孤独だったと思う」
「ローエングラム伯ですか?」
“うん”と夫が頷いた。
「誰も彼を理解する事が出来なかったと思う。いや、理解は出来ても共感は出来なかった。それが出来た唯一の存在がジークフリード・キルヒアイスだった」
「……」
私に話していると認識しているだろうか? 何処か一人語りをしているように感じた。
「皆遠くから見ているだけだ、まるで峻厳で人が立ち入る事を拒む山を仰ぎ見るようにね。もっとも伯は自分が孤独だという事を分からなかったかもしれない。多くの人間が平凡である事を理解する事も受け入れる事も出来ない人だった。彼が好み受け入れたのは非凡な人間だ」
また夫とは違うと思
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