4部分:第四章
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けていた。しかし声は彼女に向けていた。
「ソフトボールじゃ。どうするの?」
「動くのよね」
幸枝にもそれはわかった。
「こうした場合。考えるより」
「そうよ。迷うより動け」
幸枝にまた告げる。
「考えるよりね。だからよ」
「動くの」
「わかったら行くのよ」
また言う由紀子だった。
「迷わないでね。いいわね」
「動くの」
「試合は放課後」
わかりやすいようにという言葉だった。同じソフトボール部として。
「いいわね。動くのよ」
「え、ええ」
「わかったら今はね」
ここで幸枝の方を振り向いてきた。その顔が微笑んでいる。
「食べるのよ」
「食べるって!?」
このことすらも忘れてしまっていた幸枝だった。自分の膝の上に置いてあるそのパンや牛乳も。完全に忘れてしまっていた。
「何を?」
「膝の上見なさい」
「私の?」
「他に誰がいるのよ」
今度の言葉には苦笑いが入っていた。
「いないでしょ?幸枝以外。私は立っているんだし」
「あっ、そういえば」
「わかったら食べるのよ」
由紀子の言葉は続く。
「いいわね」
「わかったわ。それじゃあ」
「ええ。腹が減っては戦ができぬ」
この言葉も述べた。
「我が女子ソフトボール部の鉄の掟だったじゃない」
「ええ」
これは幸枝もよく知っていることだった。
「それはね。わかってるわ」
「だったら食べなさいよ」
また言う由紀子だった。
「早いうちわね」
「わかったわ。じゃあ」
「さもないと放課後どころじゃないわよ」
「放課後どころじゃないの」
「当たり前でしょ。お昼食べなくてどうするのよ」
由紀子の言葉が咎める色を帯びた。
「まず食べないと。そうでしょ」
「そうね。とにかく食べないとね」
「何にもできないからね。じゃあ食べて」
「わかったわ。じゃあ早速」
「食べないと何もはじまらない」
由紀子は顔を正面に戻して呟いた。
「何もね。全てはそれからよ」
「そうだったわね」
幸枝もそのことを思い出してパンと牛乳を食べていく。そして放課後。二人はその告白の場所に向かっていた。奇しくも昼にお昼を食べたその場所である。
部活の前に行くのだった。とりあえず授業が終るとすぐに屋上に向かう。幸枝は当然として由紀子もまた一緒だが幸枝はそのことに何も言わなかった。
「さて、と」
その由紀子が廊下を進みながら横にいる幸枝に声をかけてきた。
「もういるかしらね」
「川崎君が?」
「そう、あのいかついナイト様よ」
わざと茶化しての言葉だった。
「彼がね。いるかしら」
「まだじゃないかしら」
だが幸枝は首を傾げさせてこう言ってきた。
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