第一話 世は全て事も無し
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「人の多い職場という制限も有るな。貴族達が妙な事を考えんように」
益々条件が厳しくなった。人が多くて閑職? 兵站統括部以外にこのオーディンにそんなポストが有るのか? 頭が痛くなってきた……。
帝国暦 487年 2月 7日 オーディン 士官学校校長室 ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ
鐘が鳴った。ジリジリと単調な音だ。おそらく何処の講堂でもこの音を聞いているだろう。
「閣下、中間試験が終わりましたね」
私が話しかけるとヴァレンシュタイン中将が穏やかな笑みを見せ“そうですね”と頷いた。今回中将は二月一日付で兵站統括部から士官学校校長に異動した。異例の人事で帝国では大きな話題になっている。
銀河帝国では同盟と違って士官学校校長は閑職らしい。退役前の年寄り、但し人格者が就く仕事なのだとか。年齢、才能、性格の悪さ、如何見てもヴァレンシュタイン中将が就くポストじゃないんだけど異動になった。その理由は昨年の第三次ティアマト会戦に有る。あの会戦は帝国を激震させた。
第三次ティアマト会戦は帝国軍の勝利で終わったがその勝ち方が問題だった。宇宙艦隊司令長官ミュッケンベルガー元帥が戦闘中に倒れ指揮を執れない状況になってしまったのだ。本当ならとんでもない混乱が生じて大敗を喫していてもおかしくは無かったけどヴァレンシュタイン中将が万一の時のために用意しておいた手配りの御蔭で勝つ事が出来た。
でもその手配りが問題なのよね。いささか非合法でどう見ても軍紀に違反している。という事で少将に一階級降格、一年間俸給の減給、一ヶ月の停職という処分が下された。処分については妥当、いやむしろ緩いと思うからその事に不満は無い。私が不満に思ったのは中将が私に何の相談もせずにそんな危ない事をした事よ! 私は副官なのよ、副官! 私の事は考えているとか、捲き込みたくなかったとか言っているけど一言有ってしかるべきでしょうが! 情けなくって仕方が無いわ。もうちょっと私を信じて欲しいし頼って欲しい。
「幸い違法行為をする生徒はいなかったようですね、結構、結構」
「いつもは居るのでしょうか?」
私が問うと中将はちょっと小首を傾げるそぶりを見せた。
「さあ、如何でしょう。私が士官候補生の時は毎回では有りませんが毎年不祥事が有りましたね。処分を受けている候補生が居ましたよ」
処分か、つまり退学よね。まあ同盟も似た様なものかな。成績不振で退学は不名誉だからイチかバチかで不正行為を行う生徒がいる。大体見つかって退学になるけど。
停職が明けるとヴァレンシュタイン少将には大将への二階級昇進と宇宙艦隊副司令長官のポストが用意されていた。ミュッケンベルガー元帥が退役しローエングラム伯が宇宙艦隊司令長官になるのでヴァレンシュタイン中将を副
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