第一話 世は全て事も無し
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帝国暦 487年 1月 29日 オーディン 軍務省尚書室 エーレンベルク元帥
「済まぬ、遅くなった」
統帥本部総長シュタインホフ元帥が部屋に入って来た。“こちらへ”と招くと私達を見て訝しそうな表情を見せた。
「ミュッケンベルガー元帥もおられるのか? 何か厄介事かな?」
「少々、いやかなり厄介な事になっている」
ミュッケンベルガー元帥が答えると“フム”と言ってシュタインホフ元帥がソファーの空いている場所に座った。ミュッケンベルガー元帥の隣だ。そして私とミュッケンベルガー元帥を交互に見た。
「それで何が起きたのかな? 人事の事か?」
ミュッケンベルガー元帥と顔を見合わせた。ここは軍務尚書である私から話すべきか……。
「ヴァレンシュタインが宇宙艦隊副司令長官への人事を断った。大将昇進も受けられぬと言っている」
シュタインホフ元帥が眉を寄せて顔を顰めた。
「無理に引き受けさせれば良い話ではないかな、今更変更は出来まい」
ミュッケンベルガー元帥が首を横に振って否定した。
「そうはいかぬ。ヴァレンシュタインは軍規を犯した者を昇進させ栄転させては軍内に結果さえよければ何をやっても良いという風潮が生まれかねぬと危惧しているのだ」
シュタインホフ元帥が唸り声を上げた。
「理はヴァレンシュタインに有る。ローエングラム伯の下で副司令長官など御免だという感情も有るのだろうがそれだけではないな。軍の統制が滅茶苦茶になると本心から危惧している。無理強いすれば軍を辞めるとまで言っている。無視は出来ぬ」
ヴァレンシュタインは実際にそれが原因で滅茶苦茶になった軍隊が有ると私とミュッケンベルガー元帥に過去の例を挙げて説明した。そして私もミュッケンベルガー元帥もそれを否定出来なかった……。
「ヴァレンシュタインには野心が感じられない、その所為で我らはこの問題を軽く考えたのかもしれぬ。ここで対応を間違えると軍内部にヴァレンシュタインが危惧する様な風潮が生まれかねぬ。皆、出世したいのだからな」
私とミュッケンベルガー元帥が事情を説明するとシュタインホフ元帥が腕組みをしてまた唸り声を挙げた。
「なるほど、確かにそうだな。一度許してしまえば次からは咎める事は出来ぬ。軍規など有って無いような物になるか……」
シュタインホフ元帥の口調には力が無かった。その通りだ。おそらくは収拾がつかなくなる。統制の取れない軍など軍とは言えない。酷い敗北を喫する事になるだろう。それこそ帝国の屋台骨を揺るがしかねない程の敗北だ。軍が力を失えば相対的に貴族の力が強くなる。内乱が起き易くなるという事だ。私がその事を言うとミュッケンベルガー元帥、シュタインホフ元帥が顔を歪めた。
五分程無言の時間が過ぎた。シュタイン
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