三話:契約
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「何を言っているんだい? 人間はみな己のエゴを満たすためだけに生きている生き物だよ」
「馬鹿な…。人間は……ッ」
「例え話をしよう。子供が幸せになってほしいという尊い願い。それは誰の欲望かね? 誰の心が元になっているかね?」
ゆっくりと、大股で切嗣の周りを回るように闊歩しながらスカリエッティは語る。
まるで、教師が子どもに物事を教えるかのような物言いに普段ならば不愉快になるのだが今回ばかりはそんな余裕もない。
「それは親の心だろう? 断じて子供の心ではない。見方を変えれば親は子供に自らの理想を、エゴを押し付けているとも受け取れないかね?」
「それは……そうだが……」
「君の願いも、あの少女達の願いも全てはエゴだ。自己を外した願いなど願いではない。故に全ての願いは、欲望は個人が抱くエゴに過ぎないのだよ」
誰か一人を愛したいという願いも、大勢の異性を愛したいという願いも。
世界を滅ぼしたいと願うことも、世界を救いたいと願うことも。
それは総じてエゴだ。そこに貴賤はなく、平等に個人の欲望だけが存在する。
どんな願いも個人が祈る以上は全てエゴとなり得る存在なのだと彼は語る。
つまり、衛宮切嗣がかつて目指した正義の味方もまた。
「所詮は正義の味方も己の正義という名の欲望を満たすエゴイストに過ぎないのだよ」
その言葉に切嗣はあることに気づく。
誰かを救いたいという願いは、誰かが傷つくことを前提に成り立っているものだと。
誰かが傷つくことを望み、自らの欲望を満たすためだけに人を救う。
まさしく、エゴイストだ。
「故に私は肯定しよう。君の欲望を。誰かを救いたいというとんでもないエゴをね」
「僕は…ッ」
「ちょうど、救いを待つ者がいると言ったら君はどうするかね?」
悪魔が囁きかける。その甘言に一度でも乗ってしまえば二度と戻ることはできないだろう。
だが、それでも。誰かを救えるというのなら手を伸ばしたくなってしまう。
こんな愚かな自分でも欲望を満たしていいのなら。
「私なら救う術を知っている。今までの犠牲全てに報いる方法を君に与えることができる」
「…………」
「何も心配することはない。君は今まで通りの行いを続けていけばいい。私がそれを価値あるものにしてみせよう、正義にしてみせよう―――奇跡をもってね」
悪魔が手を差し伸べる。切嗣はその手と自身の手を交互に見つめ考える。
この手を取れば、自分は今までのように誰かを殺し続けていくことになるだろう。
都合のいい手駒として一生を使い潰されるだけだろう。
望まぬ道をかつてのような苛烈な意思もなく、剥きだしの心のまま彷徨い続けるだろう。
「……本当に誰かを救えるのか?」
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