三話:契約
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に切嗣の心は弱っていた。
ただ、己の罪深さを憎悪し、無価値にしてしまった命に詫び続けるだけだった。
そこへ、異形の笑みを浮かべた男が入ってくる。
「やあ、目覚めた気分はどうだい? 衛宮切嗣」
「……殺してくれ」
スカリエッティの声に切嗣は静かに、深く、絶望した声で懇願する。
こんな罪深い自分に生きる権利などない。
せめて惨たらしく殺されてほんの少しでも償いたかった。
しかし、そんな切嗣の懇願をスカリエッティは笑い飛ばす。
「くくく! 君ともあろうものが随分と甘い考えを抱いているものだね」
「……なにを」
「確かに今の君ならば私でも簡単に殺せる。だが、それでいいのかね? 君が無意味な死を迎えれば、それこそ君が殺してきた者達の全てが無意味になるのではないのかね?」
真実であった。既に奇跡は起こるのだと証明された。彼らは死に必要はなかった
しかし、まだ衛宮切嗣という男に価値があれば少しでも死んだ意味が出るというものだ。
だが、ここで衛宮切嗣がゴミのように死を迎えてしまえば真の意味で彼らは無価値となる。
どれだけ絶望した今でも、否、絶望した今だからこそそれだけは許せなかった。
「それは……できない…ッ。これ以上…彼らの死を愚弄することはできない…」
「その通り。衛宮切嗣は彼らに報いるために価値あることをなさねばならないのだよ、くくく」
「でも……僕には誰も―――救えない…っ」
衛宮切嗣には本物の正義の味方として生きることができる道があった。
しかしながら、別の道を選んでしまった彼にはもはや誰かを救うことなどできない。
それは、力が足りないということではない。心が折れてしまったからだ。
他ならぬ彼自身が誰かを救えるという希望を欠片も抱くことができないのだ。
そんな人間ではどれだけ力があろうと何も救えない。
否、何を救うべきかも分からない。
「僕にできることは殺すことだけだ。救う術なんて知らない…! いや、そもそも本当の意味で誰かを救うということに目を向けもしなかった。その結果がこの人殺しの完成だ!」
掠れた声ながら腹の底から叫ぶ。
この世の全ての人間が衛宮切嗣を許そうとも、彼だけは決して自身を許せない。
奇跡があったのに、救う術があったのにも関わらず、見捨てた自分自身を。
彼はただひたすらに呪い続ける。
「くっ、そこまで後悔するかね? 私としてはエゴを貫く人間は好きなのだがね」
「そんな理由で……人を死に追いやっていいわけがない。それは正義の味方なんかじゃない」
自分の自己満足で人を殺していいはずがない。
そう思うが故に切嗣は否定の言葉を返す。
しかし、スカリエッティはさらに笑みを深めて両手を広げて語り始める。
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