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怪我から
8部分:第八章
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第八章

「少しずつだけれど確実にね」
「優しい顔に」
「なってるのよ。少しずつだけれどね」
「そうなの」
 そう言われても自覚はないがそれでもだった。母が言うのだった。
「顔まで」
「なってきたわ。確かにね」
「表情も変わってきたの」
 実生にとってはこれは意外なことだった。確かに自分は変わってきたと思っていたがそれでも表情まで変わっていたとは思っていなかったのだ。
「それまで」
「生き方は表情に出るのよ」
 母の言葉はここでは年配者としての言葉だった。
「きつい生き方をしていたらきつい顔になるし醜い生き方をしていれば醜くなるのよ」
「醜く・・・・・・」
「テレビとか見ていればわかるわ」
 そうしてテレビの話をするのだった。
「ほら、お母さんの嫌いなあの番長ぶってる元プロ野球選手とか夜にいつも出ていたニュースキャスターの人とかいるじゃない」
「ああ、あの人とあの人なのね」
 実生もそれが誰と誰なのかわかった。彼女も嫌いな連中である。
「確かによくない顔してるわね、あの人達」
「生き方が悪いからよ」
 だからだというのである。
「けれど逆に言えばいい生き方をしているとね」
「いい顔になるのね」
「そうよ。いい顔になるのよ」
 微笑んで娘に告げるのだった。
「いい顔にね。なるのよ」
「そうなの。じゃあ私は」
「その看護士さんのおかげね」
 また言う母だった。
「それも」
「そうなの。じゃあ私今考えてることがあるんだけれど」
 ふと実生の言葉が変わってきた。
「いいかしら」
「何なの?それ」
「私、看護士になろうって考えてるの」
 こう言うのだった。
「看護士にね」
「そうなの。看護士に」
「蘭流さんみたいになりたいから」
 だからだというのである。つまり蘭流は彼女にとって目標になったのだ。
「だから。看護士さんになりたいんだけれど」
「いいんじゃないの?」
 母も娘のその考えを認めた。
「それで。いいと思うわ」
「そう。看護士になっていいのね」
 母の言葉を受けてそのうえで頷いたのだった。
「私、蘭流さんみたいになって」
「素晴らしい人に憧れて近付くのはいいことよ」
 それだけ自分が高まるということだった。それが悪いことである筈がなかった。
「だから。なりなさい」
「そう。それじゃあ」
「けれど。本当に凄い人ね」
 母はつくづく思ったのだった。その蘭流のことは彼女も知っているがそれでもだった。蘭流の人間としての徳を思わざるを得なかったのだ。
「あんたをそこまで変えたあの人は」
「ええ。それで今から」
 また実生は言ってきた。
「その人に会うのだけれど」
「今からね」
「そう、今から」
 実生の顔は楽しそうに微笑んでいた。
「会えるわ。
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