参ノ巻
抹の恋?
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しはすぐ目を逸らした。
「…高彬は、おまえのことが好きだよ。きっと、何よりも」
「…なに、言って…」
はっ、と笑おうとしたのが形にならず、空しく消える。
「おまえは違うのか?」
聞き流そうとしたあたしを許さず、惟伎高は更に言葉を重ねる。
「…好きよ、高彬のことは」
…いやだ。何で、こんな話を高彬の義兄としなきゃなんないの?それに、あたしはもう高彬の前に瑠螺蔚だと名乗り出ることもできない。あたしがここに生きていても、高彬との未来はないのだ。それを惟伎高は知らない。高彬があたしのことをかつて好きだったとして、そして例え今でも好きでいてくれるとして、それでも、何がどうなることもないのだ。道はもう二度と交わることはない。そしてそうとわかっているのなら、高彬がこの先もずっと亡霊のようなあたしに囚われていることは、決して良いこととは言えない。それなら、高彬にはできるだけはやく新しい恋をして貰って、あたしのことなんかサッサと忘れて、幸せになってくれたほうが良いに決まっている。
その相手に、抹は、きっと最適なのだ。
「まァ、何を考えているかは大体想像がつくが…」
いつもそうだけど、惟伎高は特に今日良くあたしの頭を触る。再びあたしの頭を、惟伎高の手がふわふわと撫でるのがわかった。
「考えすぎるなよ。心のままに動いたッて誰もおまえを責めたりはしねェさ」
優しい声が振ってくる。
…ふん。心配してくれているのよね。惟伎高はホント、できた人だ。あたしと高彬を見て、やきもきしているのはわかる。きっと、あたしが高彬の前に出ていけばそれでもう万事解決だと思っているに違いない。でも、こちらには惟伎高の思惑通りにはいかない事情もあるのだ。
ありがとう。でも、ごめんなさい。
「ちょっとあたし行ってくる」
あたしは話を断ち切るように、尼頭巾を目深に被り直して、すくっと立ち上がった。
「はァ?行ってくるってどこに…ピィ!?」
あたしは惟伎高の声を背にずんずんと歩を進めた。
その先には、未だ良い雰囲気を漂わせる、抹と高彬がいる。
そう、あの幽霊だか何だかに、「おまえが生きていることを知らせてはいけない。知られたら、知った人間を皆殺しにする」と言われた。けれど、高彬はこうして生きている。見たところ、これと言った異変も無い。直接ぶつかっても、こうして近くにいても、あたしのことを瑠螺蔚だと認識していないから。要は、個人としてバレなきゃ良いのだ。
あたしが、「石山寺の尼君様」である限り
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