参ノ巻
抹の恋?
2
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き結び、ピクリとも動かない高彬は本当に死んでいるかのようだった。やっぱりあたしが巻き込んだのは高彬だったようだ。この子は本当に貧乏クジを良く引く。引かせてるのはあたしだけど。
当たり所が悪かったとか…ないよね?
生きてる…わよね。
そっと引き締められた唇の上に手を翳すと、確かな空気の流れを感じ取れた。生きてる。…良かった。
衾にすっぽり覆われた不審者丸出しの格好のまま、あたしはじっと至近距離で高彬の顔を見つめた。
…窶れたな、高彬…。
げっそりと削げた頬に、あたしの胸はずきりと痛んだ。思わず手を伸ばしかけて、引き戻す。間違っても起こしちゃいけない。深く眠っているようで、そもそも起きる気配もなさそうだけれども。
「…」
もう二度と会えないと覚悟した人をこうやって目の前にすると、胸からぐっとこみ上げてくるものがある。あたしは唇を噛みしめ、視線を落とした。
高彬が命を落とすことなんて、絶対にあってはいけない。そう、強く思う。
はー…と深く息をつく。
…うん。覚悟を決めた。あたしも。
ここを出よう。惟伎高のいる石山寺を。
本当は、惟伎高が高彬の義兄だとわかったときから−…ううん、ここがまだ淡海国内だとわかった時点で、あたしは即座に離れるべきだったのだ。少しでも遠くへ。前田と関わりの無い土地へ。
でも、惟伎高がいい人で、抹と一緒に居るのも楽しくて、そうしてついに高彬まで現れて、やっぱりどこか離れ難くて、なんだかんだ理由をつけてずるずると居座った挙げ句、隣で眠る高彬を見つめる距離にまで来ちゃったけど、それは今にも切れそうな糸の上を渡るようなもの。今も半信半疑だけれども、あの女童の言を信じれば、高彬が今少し目を開けるだけで、その命は露と消えることになる。
そんなの、絶対に絶対に嫌。
だから、今度こそ、本当にさよならだ。
由良は、泣いてないかな。三浦のクソッタレとどうなったか聞きそびれたけど、由良なら世界一のいい男が見つかるわ。絶対。姉上様は…大丈夫かな。体調をずっと崩されているという話も聞こえてたけれど、結局会えず仕舞いで…。姉上様はとてもお美しいから、兄上のことは兄上のこととして、新しい人を見つけて元気になってくださると良いな…。その方が兄上も喜んで下さると思います。お幸せに。…父上。ああ、良く考えれば、あたしがいなくなったから、父上はもう、前田の本家で一人きりだ。血が絶えるとお家は取り潰しになっちゃうから、分家かどこかから養子貰うんだろうけど…ま、父上はなんだかんだ元気でやってってくれる
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