参ノ巻
抹の恋?
2
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え、待てよ。と言うか、高彬の名前もあたしから聞いたのよねこの子は…てことは…。
「まさかとは思うけど、自己紹介も済んでないなんてことは…」
「自己、紹介!?私ごときにあの方のお時間を頂戴するなど勿体ないことでございます!」
もの凄い勢いで首を振る抹。
な、なぁにぃ〜!?今の様子からすると、本当の本当に抹はお茶だけ置いてトンズラこいていたに違いない。茶菓子を差し出すその時も顔を上げていたかすらアヤシイ。そして十中八九、高彬は抹のことを個人として認識してはいないだろう、残念ながら。抹同様、高彬もまさか名声轟く石山寺に惟伎高ぐらいしか坊主がいないなんて思ってもみないと思うから、お茶を出しに来たこれだけの美人である抹も、沢山いるであろう尼のなかのたかが一人としてしか見えていないと思う。くそー。抹は尼頭巾被ってないから本当の尼と違って美しく長い髪が露わだけど、女性の機微にてんで疎い高彬がそれに気づくかはあたしにもわかんない。そして例え気づいたとしても、それで抹自身に興味を持ってくれるかも賭でしかない。高彬もなー。恋愛にあんまりガツガツしてそうな性格にも見えないしなぁ。こりゃ長期戦でいく覚悟じゃないといけないかも…。
とりあえず!好きの嫌いのと言う前に、まずは高彬に抹の顔と名前を知って貰わなければならない。千里の道も一歩から!
と、言うわけで。
「あ…っ尼君様ぁ〜…」
未だひやりと肌を撫でる風がぴゅうと吹きさす濡れ縁。に立つ、抹。その手にある膳が緊張のせいかカタカタと揺れている。
「こら。情けない声を出すんじゃないの。まずはあんたという存在に高彬が気づけば良いって言ってんのよ。そう難しいことじゃないでしょ?」
あたしは声を潜めてボソボソと言った。
「む、む、む、無理です…」
「大丈夫、無理じゃない。このままでいいの?もっと仲良くなりたいんでしょ?あんたならできる。信じてるから。いけっ!」
あたしは抹の背をとんと押した。
抹はあたしに押された勢いで一歩を踏み指し、手に持つ朝餉を取り落としていないか確認すると、後ろのあたしをちらりと見た。その瞳がうらめしげに見えるようなのは、気のせいじゃないかもしれない。
あたしはそんな抹にが・ん・ば・れと口の動きだけで伝える。
抹は目線を彷徨わせると、諦めたように足を踏み出した。
「…失礼いたします」
「どうぞ」
抹が中に招き入れられ、障子が閉まったと見るや否や、あたしは高彬と惟伎高が話していた時のようにすささささと素早くその場所に近づいた
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