精神の奥底
53 朝の到来
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そこは深い闇の中だった。
しばらく意識を失っている間に世界は様変わりしていた。
両手には冷たい金属の感触と、目には何か柔らかい何かがきつく締められている。
恐らく手錠が掛けられ、目隠しがされているのだろう。
それに足の裏から揺れを感じ、車に載せられているのを感じていた。
冷静に判断すれば、何者かに捕まり、車で移送されている状態だ。
しかし記憶がイマイチはっきりしない。
そんな時の理由は1つだけだ。
“もう1人の自分”が何かをやった。
そうとしか考えられない。
「……」
“彼女”とはもう10年以上の付き合いになる。
いつも自分の意識がはっきりしない間に取り返しの付かない事を何度も繰り返し、自分を苦しめてきた。
医者に相談しても一生付き合っていくしか無いと見限られた。
だが遂にそんな彼女にも年貢の納め時がやってきたのだ。
自分を道連れにするというおまけとともに。
「ハァ…」
全身の力が抜けて、体勢が崩れた。
それを注意する男の声が反射してくる。
「オイ、体勢を崩すな」
「逃げようなんて考えを起こすなよ?」
「誰?あなたたち?」
力の入っていない声で応えた。
「何だって?」
「警察?まぁ、何でもいいわ。何を言っても…信用してくれないのは変わらないだろうし。あなたたちが誰かは知らないけど、”私たち”を止めてくれただけ…感謝してるわ」
「何だ…」
「“私たち”だと?」
「私が二重人格だなんて、そんな都合のいいこと言っても…信用してくれるはずがない…」
「二重人格?それは傑作だな。しばらく眠り込んで考えた言い訳がそれか?」
「いや待て。様子がおかしい」
「どうせ演技ですよ」
「今日は何日だ?」
「10月…26日?」
「…あなたの年齢は?」
「36歳…?」
「オイ、さっき彼女が答えた年齢は?」
「13歳とか、ふざけたこと言ってましたけど」
今日は10月31日、26日ではない。
その上、先程までの尋問で終始小馬鹿にした傲慢な態度を取っていた時とは大違いだ。
同じ人物のはずなのに、雰囲気はまるで別人だ。
確かに尋問には参加せず、この移送にだけ携わっている人間には気づけない。
声のトーンが先程より落ち着いている。
尋問の時は少し大人ぶった子供と喋っているようだった上、いまいち落ち着きにかけていた。
「後で管轄の病院に一度検査させてみよう」
「え?コイツの言うこと信じるんですか!?」
「嘘かホントかはっきりさせるには、一番手っ取り早い手段だろう?」
「でも…あの新課長がなんて言うか…」
しかし次の瞬間、衝撃と揺れが彼らを襲った。
「何だ!?」
「追突…?」
車は急停止する。
だがそれは全て読まれていた。
「ッ!?」
「ぐぁ…
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