IF 二話:無意識
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う目を背けることはできなくなった。
奇跡は起きるのだと。この手には奇跡が宿っていたのだと。
―――誰もが救われるそんな未来があったのだと。
「――――――っ!!」
はやて達の耳に不気味な程に、甲高く、泣いているかのような笑い声が届く。
ゾッとして振り返るとそこには狂ったように涙を流しながら嗤う切嗣が居た。
「何だ…何なんだ僕は。邪悪だ! 鬼畜だ!」
己の行いの無意味さと醜悪さに気づいた男はあらん限りの声で己への呪いの言葉を叫ぶ。
「奇跡は起こるというのに意地を張って罪もない人を殺し続けてきたッ!」
何の価値もない。まさに犬死という表現がぴったりの死を数え切れない者に与えてきた。
それを世界の平和のためだと傲慢にも謳いながら。
「こんな歪みが、汚物が、偽りでも“正義の味方”を名乗るだと? 誰一人救っていないというのに」
己の存在意義がそもそもの間違いだったのではと思う。
本物の正義の味方は存在した。
だというのに、自分は唾棄すべき行いを正義と偽り、自らが“正義の味方”だと酔っていた。
「ありえない、ありえないだろ、何だそれは。僕は、ただの―――人殺しじゃないかッ!!」
既に彼は壊れていた。もう、彼には何も残されていない。
誰かを救うことなど決して出来はしない。
自らその手段を放棄した男に誰かを救うことはできない。
振り返ってみれば彼の人生はまさしく邪悪な人殺しの人生でしかない。
「僕が諦めなければ―――彼女は救えたんだッ!!」
唯一、衛宮切嗣が救おうとした少女。その時に諦めさえしなければ奇跡は起きた。
だが、彼は諦め、人殺しの道を歩むに至った。
全てを救える奇跡を宿しながら自ら殺人鬼になることを選んだ鬼畜。
そんな己が許せずに、切嗣は鬼のような形相で雄叫びを上げ続ける。
心配して近づいてきてくれるはやての姿も、もう目に入らない。
ただ、己に罰が与えられることだけを求め、狂い続ける。
意識すら朦朧とし、自身ですら何を言っているかを理解できない。
それでも彼は口にした。
「……偽善でも独善でも、エゴでもいい……誰か一人でも救いたかった」
それは誰一人として救うことなく、己の在り方を否定された哀れな男の嘆き。
己の行いが原初の願いと真逆のものだと悟ったからこそ祈った。救いたいと。
誰でもよかった。誰かを一度でも救いたかった。ただの自己満足でいい。
そんな正義の味方が抱くには過ぎた祈りは神ですら聞き届けないだろう。
だが―――
【くくく、そんなに誰かを救いたいかね? なら、私の手を取るがいい】
―――悪魔はその願いを聞き届けた。
聞き慣れ
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