IF 二話:無意識
[5/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
折れてしまいそうな心を支えながら切嗣は叫ぶ。
平和の為に、片方を助けるために犠牲にしてきた者達。
誰もが助かる道があるのなら死なずに済んだ者達。
その死は全てが救われた瞬間に無意味なものとして定義されてしまう。
それだけは衛宮切嗣は認めるわけにはいかなかった。
「あなた……気づいている?」
「何にだ?」
少し、怯えたような心配したような複雑な表情でアリアが尋ねる。
尋ねられた切嗣は何を言われているのか分からずに不機嫌そうに眉を顰める。
そして、アリアが意を決して呪いの言葉を突き付ける。
彼の言動が決して背いてはならない願いに背いている事実に。
「あなたは客観的に見たら―――誰かが死ぬことを望んでいるように見えるわ」
誰かを救いたいという衛宮切嗣の原初の願いに自ら背を向けている。
驚愕のあまりに目を見開き固まる切嗣。すぐに否定しようとするが声が出ない。
救おうとしてきたはずだった。だが、やってきたことはその真逆のことだった。
いつだって自分は死体しか見ていない。誰かが笑っている姿なんて見たことがない。
それでも……それでも、衛宮切嗣は誰かを救おうとしてきたはずだ。
誰かが死ぬことなんて望んでなどいないはずだ。
心の中で必死に自己弁護を行うが激しい吐き気がそれを拒む。
「誰かを救いたいという願いと犠牲を減らしたいという願いは同じようで違う」
「う……あ…」
前者は誰かを救うことで心が満たされていく。
後者は誰かを殺すことで心が満たされていく。
衛宮切嗣は心のどこかで人を殺すことで犠牲が減ると喜んでいたのではないのか。
裏にそんな意味が隠された言葉を受け、切嗣は呻き声を上げる。
違うと叫びたかった。しかし、心のどこかでそうではないのかと誰かが呟いた。
世界を守るために、誰かが死ぬことを望まなかったのか。
心は確かに軋みを上げ、悲しみの涙も流した。
だが、本当に、欠片たりともその死を望まなかったのか?
世界が救えると心のどこかでその死を歓迎していなかったか?
「無意識のうちに、今までの犠牲を無意味なものにしないようにあの子達が失敗することを―――大勢の人間が死ぬことを望んでいなかった?」
目の前が真っ白になる。真実であった。言われて初めて気が付いた。
衛宮切嗣は自身の行いを否定されることを恐れ―――大勢の命が奪われることを望んだ。
それだけは望んではならなかった。天地がひっくり返ろうとも望むべきことではない。
だというのに、事実から見れば彼は望んでしまった。
意固地になっていた部分もあるだろう。疲労から判断力も奪われていた。
リスク管理の面からみれば何一つ間違っていない行動だった
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ