第30話
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質そうと張勲に目を向けると。
彼女は気まずそうに視線を泳がせた。
「…………」
それで袁紹は大体を察する。理由は不明だが張勲はこれまで反袁紹派の懐柔を放棄してきた。
必然的に荊州の中でその影響力は大きくなる。そんな中で育ってきた袁術が、実兄とはいえ自陣の敵である袁紹に良い感情を持っているはずも無い。
恐らくろくでもないことが刷り込まれているのだろう。張勲が目を泳がせたのはそれを阻止できなかった後ろめたさか、はたまた彼女自身がそれを行っていたのか。
(下らんな、本当に下らぬ……)
少女の自身に対する感情を正しく認識した袁紹は、再び足を動かし近づいた。
張勲の袖を強く握り、肩を震わせるその姿に心を痛めながら。
「ッ!?」
「え!? れ、麗覇様!!」
次に袁紹が取った行動で斗詩が驚きの声をあげ、張勲――そして猪々子までもが目を見開いた。
跪いたのだ、袁家現当主にして大陸でも一二を争う大勢力の長が、自分に仇なす勢力の長に。
もっとも袁紹としては、ただ目線を合わせるのが目的で他意はない。大陸の常識など、袁紹にはあって無い様なものである。
「初めまして愛らしい娘よ、我が名は袁本初。此処へは未だ見ぬ我が妹に会いに来た。名を……名を聞かせてはくれないか?」
「……」
跪いた袁紹にビクリと肩を震わせた袁術だったが、彼から発せられた言葉と、その目を見て震えを止める。
怖い人物だと聞いていた。事実、ここに入る前に聞こえてきた怒号、張勲に対して向けた言葉。
全身から発し続ける、上に立つ者独自の空気。
しかし目の前の彼はどうだ。先程とは違い優しい声色、不安げな表情。
その姿は、袁術が抱いていた『袁紹』とは余りにも違うもので――
「袁……公路なのじゃ」
「ほう、その年で字を持つか。将来有望ではないか!」
(あ……)
いつの間にか頭の上に感じる温もり、それが袁紹の手であるとわかった袁術は、子供特有の勘なのか、目の前の男に邪気が無い事を感じ取る。
「兄様…………なのかえ?」
「我こそがお主の兄、こうして合間見えること、待ちわびていたぞ」
「兄様ぁッ!!」
気がつくと袁術はその胸の中に飛び込み、嗚咽をもらし始めた。
「お嬢様……」
その様子に張勲は、自身の置かれた状況すら忘れ胸を痛める。
――わかっていた。派閥の庇護下の元、何不自由なく暮らしてきた主袁術にとって、唯一肉親の情が欠けていたことが。
生まれて直ぐ実の父に荊州へ追いやられ。母親は病を患い、物心つく前に他界。
周りにいる反袁紹派の者達は袁の名に追従しただけ、誰も彼女自身に目を向けたものはいない。
それ故に張勲依存。寂しさを紛らわせ
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