6.『鏡』
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お兄ちゃん。
お兄ちゃん。
聞こえる?
……わけ、ないか。
そうだよね。
できないこと、だもんね。
寂しいよ。
そうだ。
数か月前に、会った時のこと。
私ね……決めたことがあるの。
お兄ちゃんの傷を見て、ね。
色とりどりのわりと広い部屋。ふわふわのベッドの傍には、いくつものぬいぐるみがある。それはまさに女の子の部屋そのものである。しかし、雰囲気は異なる。明るい色に囲まれているはずなのに、暗く感じるのだ。
とてとて歩いてマグカップを二つ運んできた少女、絵文はうさぎの描かれたマグカップを東に渡した。
「お兄ちゃん、ミルク温めたよ」
「お、ありがと」
向かい合って、同時に口をつけ、同時に離す。息はぴったりだった。絵文は東の額を見て、目を丸くした。
「お兄ちゃん……その額の傷、どうしたの?」
「ん、ああ、これ?……作戦の途中で、ちょっとやられてね」
軽く笑ってみせたが、その傷は痛々しかった。
「ぅぅ……」
「あぁ、泣くな泣くな。これぐらい大したことないよ」
深紅の瞳が潤み、幻想的な世界が映される。
しっかりと、鏡のように。
「お兄ちゃん、無理、しないで、ね」
「あぁ……」
二人はお互いを確かめ合うかのようにしっかりと抱き合った。
「(私……今は軟禁されて動けないけれど、いつか必ずここを出て、お兄ちゃんを守って見せるからね)」
そんなことを思っていることを東が見抜いていたかどうかは知る由もない。
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