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季節外れのバレンタイン
季節外れのバレンタイン
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た。
「チョコレートをあげるのはバレンタインで。七夕では御願い短冊に書いてそれを色々に飾った竹にかけるものなんだよ」
「そうだったのですか。それがバレンタインと七夕ですか」
「どっちもどっちで。違うから」
 伸次郎の日本文化への説明は続く。
「その辺りわかっておいてくれたらいいかな」
「そうだったのですか。バレンタインにチョコレートはプレゼントしないのですか」
 そのことがわかってだ。ヒルダは見てするわかる程はっきりと落胆してだ。こう言うのだった。
「がっかりですね」
「残念だけれどね」
 伸次郎もこう言う。彼はここで話が終わったと思った。ところが。
 ヒルデはあらためて身を乗り出してだ。そのうえで彼に問うのだった。
「それで。チョコレートの返事ですが」
「ええと、チョコ?バレンタインの」
「はい、その返事は」
 見れば黒いハート型の巨大なチョコにホワイトチョコで何か書いている。ドイツ語なので読めないがそれでも何と書いてあるかわかる。伸次郎はそれを見てまずは唾を飲み込んだ。
 実は彼女はいない。しかも昼では奇麗でタイプでもある。これだけで断る理由はない。しかしそれ以上に。
 ヒルダの思い詰めた様な顔を見るとだ。とてもノー、ドイツ語ではネインとは言えない。彼は既に敗れていた。 
 そうして決断を下してだ。ヒルデに答えた。
「僕でよかったら」
「ダンケシェーン、ヘル」
「それどういう意味?」
「有り難うございます。殿方という意味です」
 こうにこりと笑ってその日本語での意味を話す。それを聞いてだ。
 伸次郎はダンケシェーンは知らなくともこの言葉は知っていた。ドイツ語でお嬢様とはどう呼ぶのか。
 それでだ。その呼び名でヒルデに返した。
「ダンケシェーン、フロイライン」
 彼もにこりと笑ってヒルデに答えた。そうしてだ。彼女の作ったチョコレートを食べる。そのチョコレートは最高の甘さだった。ただ溶けそうだったのは夏の暑さのせいだけではなかった。


季節外れのバレンタイン   完


                   2011・6・28
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