孤独を歌う者 5
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これは遥か昔、不思議な力が世界中に溢れていた頃のお話。
破壊と殺戮であらゆるものを恐怖に陥れる悪魔の王……魔王と呼ばれる者がいました。
神々は彼を退ける為、人間の中から一人選んで力を授け、勇者の称号を与えて送り出します。
勇者は信頼する仲間と共に魔王へ挑みましたが、力及ばず魔王封印と引き換えに全員殺されてしまいました。
……これが事実。
自分自身が何なのか解らないまま、長い時をさ迷う者がいました。
何をどうしていいのか解らない彼に、神々は強く優しい人間を選んで送り出します。
ですが、人間とその仲間達は、迷い続ける彼にしっかり答える事ができず、殺されてしまいました。
けれど、初めて自身に伸ばされた手を。言葉を。彼は確かに受け止めようとしていたのです。
受け止めようとして、でも、人間達は既にいません。
嘆き哀しんだ彼は、人間達の記憶を永遠に眠らせると決めました。それが人間達の最後の望みだったからです。
例えその記憶が、彼にとってほぼ唯一の宝物だとしても。
だからこそ、大切なものを失う痛みを知って欲しいと望む人間達の意思に従ったのです。
……それが真実。
事実も真実も変えようがない、背負うべき過去。
彼と彼女の選択も、ある意味正しい終結の形なのでしょう。
ですが二人共、重要な事を忘れてはいませんか？
あの日、マリアがブローチの宝石に閉じ込めた空間。薄緑色に照らされている玉座の間を見渡す。
階段の下方にはウェルスとコーネリアが。玉座にはアルフリードが眠るように座っている。
器があっても、アルフリードは戻らない。コーネリアにもウェルスにも二度と会えない。マリアが仲間に見せていた笑顔は、俺には決して見えない。
それが俺のした事。
だから、この空間はあの日に帰る。
勇者一行が死んだ……俺が壊した、あの日に。
「……おやすみ。アルフリード、ウェルス、コーネリア……マリア」
死は死に。灰は灰に。事実は事実に還す。
玉座に、階段に、さらりと落ちる白い灰。
此処にはもう、俺とマリアの二人だけ。
記憶にある笑顔よりも優しい微笑みを浮かべて眠ったマリアを強く抱き締めてから、左手をその胸元に翳す。手のひらと体の間に現れた小さな水色の結晶を掴み……手の中で、砕く。
これで俺は一人に戻った。
もう、生きる理由も意味も探す必要は無い。
魔王は勇者達と共に死んだ。
この空間も記憶も俺も、全部消える。
アリアの力を使ってブローチを扉に返し、本体に戻ってマリアの器を抱き締めたまま、目蓋を閉じた。
「これで良い……」
「あまり、言いたくなかった、んですが……莫迦ですか、貴方」
「……？」
崩壊を始めた空間が、開いた視界に色彩を変える。
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