孤独を歌う者 5
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私は私です。他の誰でもありません。私なんかより気にするべき相手が、すぐそこに居るでしょう。いつまで彼女の存在を無視し続けるんですか」
クロスツェルの静かな目線が、震えている女神を示す。
うつむいているアリアに目を向ければ。
ぼたぼたと音を立てて落ちる透明な雫が、三人分の衣服を濡らしていた。
「アリア」
俺の声に反応したアリアの肩が、ぴくりと小さく跳ねる。
「…………もう、嫌、なの」
喉が引き攣っているのか、アリアの声が絞り出したように掠れている。
平穏な世界を望んでいながら、結果的に真逆の道を進ませた愚かな娘。
それでも、世界の命と未来を懸命に護ろうとしていた、偽りの創造神。
「せっかく仲良くなった動物……も、人も……みんな、死んで、しまうの。殺されて……! もう、もういやっ! 誰も殺さないで! 誰もそんな風に死んでいかないで! 貴方達まで私の前で殺し合わないでよ、お母さん……お父さん!!」
勢いよく上げた顔は、元が誰かも判らないほどの悲痛に歪んでいる。
俺の力に気付いてから常に平静を装っていた賢さや健気さは残ってない。
「殺し合っているように見えたのか?」
「お母さんを殺そうとしてたじゃない! お父さんも! 自分を殺しそうになってたじゃない! やめてよ! 私が二人を殺すなんて、絶対に嫌!!」
……ああ、そうか。そういう見方もあるのか。
俺から受け継ぎ、俺が使っていたとしても。
アリアとの契約で得た力は、アリアの物であることに変わりはない。
広い目で見れば、アリア自身が俺達を殺すことになる。
「嫌か?」
「嫌よ! 当たり前じゃない!」
「……そうか」
人間年齢で言えば、大人と呼んで当然の域を遥かに超えているのに。
アリアはまだ、小さな子供のようだ。
嫌だ嫌だと、駄々を捏ねて泣き喚く姿は……よく、似ている。
「当然か」
「そうよ! 当たり前よ!」
「……そうだな」
当然と、当たり前。それぞれが示す意味はズレているんだろう。
だが、不思議と噛み合う。
それが微妙に可笑しくて、ほんの少し口角が上がった。
神聖さをかなぐり捨てて泣きじゃくるアリアの頬を、左手で包み込み。
「契約を、上書きする」
薄い緑色の閃光が、アリアと俺の体から渦を巻いて立ち昇り、空を穿つ。
波紋を描いて世界中へ拡がったそれは、アリア色の淡く光る雪となって、柔らかく舞い落ちる。
「新しい契約だ。お前は世界に償い続ける。贖罪方法は自分で考えろ。俺はお前を影で支えよう。創造神アリアは伝承と宗教にのみ姿を残して消える。どうしても護りたいのなら、手が届く範囲だけ。背負える分だけを背負え。欲張るなよ、アリア」
「レゾ……」
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