最終話:八神切嗣
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ためでしょうか」
「その通りだよ」
「じゃあ、お父さんはこの後……」
「うん、姿を消すつもりだよ。もう二度と会えないかもしれない」
衛宮切嗣が死んでしまえば情報の漏洩をそれ以上気にする必要はない。
だが、生きていると分かればはやて達にも危害が及びかねない。
これ以上共に過ごすわけにはいかないのだ。
本来であれば家族に対しても隠し通すべきなのだがあることを伝えるためにどうしても姿を現すしかなかった。
「リインフォースは……先に行ったんだね。少し、羨ましいかな」
リインフォースが先に消えたことに若干寂しそうに笑いながら告げる切嗣。
彼女は満足して笑っていけたのだろう。
自分もそうやって逝ければいいなと思うが当分先の話になるだろう。
「おとん……おとんも私の前から居なくなるん?」
「はやて……ごめんね」
「違う。勿論、おとんが居なくなるんわ嫌やけど、それ以上におとんが私達と一緒に暮らす権利がないからという理由やったら流石に怒るわ」
はやての目は逃げるために姿を消すのは許さないと雄弁に物語っていた。
彼女は家族の罪から逃げることはしない。共に償おうと考える。
そんな姿勢に本当にまっすぐに育ったと思いながら切嗣は微笑む。
「少し前の僕ならそう考えていただろうね。実際、今回の事件に関しては全部の罪を僕に押し付けるように言うつもりだったし」
こうなった以上は切嗣ははやてに、衛宮切嗣に殺すと脅されて無理矢理に蒐集を行っていたと証言させる気でいた。
そうすればはやてが無罪になる可能性は十分にある。
何よりも、今回の事件での死亡者は“衛宮切嗣”ただ一人なのだ。減刑の見込みはある。
ただ、騎士達は自分の意思で動いたと明確に判断される可能性があるので罰は免れないだろう。
だとすれば、はやてが共に罪を償おうとする可能性は高い。
自分が幾ら止めて無駄だろうと切嗣は判断したのだ。
「そんなことせんよ!」
「そうだね。はやての意志に委ねるよ。ただ、僕が生きていることは本当に信頼できる人間にしか言わないこと。これだけは絶対に守ってね」
「……わかった」
苦しそうに頷くはやてに少しばかりの罪悪感が湧く。
しかし、ここで手を抜けば家族の命が危ないのだ。手を抜くわけにはいかない。
ただの悪党ならばどうにでもなる。だが、正義を相手にするのは無謀だ。
正義とは常に勝者のことだ。その勝者を敵に回すことほど厄介なことはない。
「やっとやりたいことが分かったんだ」
「……何なん?」
「僕はね、やっぱり―――誰かを助けたいんだ」
かつてならこんな願いを自分が言っていいのかと悩みながら口にしていただろう。
だが、今は迷いなく言いきれた。誰かを助けたい。
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