二十八話:旅の終わり、新たな旅へ
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旅する魔導書の旅を終わらせるために。
空から降り注ぐ白雪が海鳴を一面の銀世界へと変える。
その中でも一際目立つ白銀の魔法陣が一人の女性の周りに展開されている。
さらに、その三角の魔法陣に重ねるようにもう一つ。
上は赤紫の魔力で、左は桃色、右は黄金の不思議な魔法陣。
それこそが祝福を運ぶ風を新たな旅へと誘う終わりの詩。
だが、その旅立ちを黙って見送れるほど夜天の主は非情ではなかった。
目を覚ますと同時に異変に気づき、こうして車椅子のまま自力で場所を探し出したのだ。
しかし、それでも祝福の風の気持ちは変わらない。
主の再三に及ぶ説得にも頷くことはなく、ただ満足気に微笑みかけるだけである。
「なんでや…今まで悲しい思いしてきたんや。救われなおかしいやろ!」
「主はやて、私の心と体は既に救われています」
涙ながらに声を上げるはやてにリインフォースは近づいて触れ合うことなく微笑み続ける。
本当は触れ合ってその温かさを感じていたいのかもしれない。
だが、海よりも深く愛する者のために彼女は決して魔法陣の中から出ることはない。
そんな想いが分かるからかはやても無理に近づくことができない。
「それに私の意思はあなたの魔導と騎士達の魂に残ります。私はいつも、あなたの傍にいます」
「そんなんちゃう! 一緒におらんのなら違う!」
「駄々っ子はご友人に嫌われますよ」
「リインフォース! ―――あ」
ついに我慢が出来なくなったはやてがリインフォースの元に駆け寄ろうとする。
しかし、雪の下に隠れた石により躓いてしまい、車椅子から身を投げ出されてしまう。
その姿に全員が駆け寄って支えてあげたいと思うが儀式を中断するわけにもいかずに悲しげな表情を浮かべるだけである。
「なんでや……今から、たくさん幸せになっていかんといけんのに……なんでや」
体を引きずるようにリインフォースの元に近づこうとするはやて。
その姿に不謹慎ながらに自分のことをここまで思っていてくれるのだと嬉しくなるリインフォース。
魔法陣から出ないように気を付けながらゆっくりと歩み寄り、涙の流れる頬を優しく撫でる。
「大丈夫です。私は世界で一番幸福な魔導書ですから」
もし、心優しき主と最高の騎士達と共に生きていけるのならそれは素晴らしいことだろう。
だが、それができなくとも幸福であることに変わりはない。
主の危険を払い、主の身を守るのが魔導の器たる自身の命題。
主を守るためにこの身を犠牲にでき、主にその終わりを惜しまれる。
魔導の器としてこれ以上に幸せなことなど存在しないだろう。
「リインフォース……」
「私はこの世の誰よりも幸せです。だから、こう
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