九十六 消し去れない過去
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すと、キバがシカマルを先へ行かせる際に用いたクナイが眼に留まる。
それを奪い取って、彼女はキバ目掛け、クナイを振り翳した。
刹那―――。
「獣人体術奥義【牙通牙】!!」
動けないはずのキバ、そして何故かもう一人いるキバから多由也は思いっきり跳ね飛ばされた。衝撃で笛が真っ二つに折れる。
「が…ッ、」
思いもよらぬ攻撃に、多由也の身体が宙を舞う。
そのまま後方の大木の幹で背中をしこたま打ち、彼女は苦悶の声を上げた。激痛に耐えながらも、視線を投げる。
己の笛の音による幻に囚われていたはずのキバ。その隣に佇む子犬の姿に、多由也は眼を見張った。
「な…、何時の間に…ッ」
「お前に降参するよう仕向けた時だよ。あの時には、既に赤丸が近くまで来ているのが匂いでわかってたんでな」
狼狽する多由也の前で、キバは相棒の背中を頼もしげに撫でてみせた。
いのの援護に向かわせた赤丸が自分の許へ向かって来ているのを、キバは己の嗅覚で嗅ぎ取っていた。ただでさえ相性が悪い自分との闘いに赤丸が加われば、どうなるかは一目瞭然だ。その上、まだ少し距離はあるが、いのの匂いともう一つ知らない匂いが接近しているのをキバは察していた。
右近・左近の匂いでは無いようだが、新たな敵という割にはいのとの距離が近い。また、赤丸がその匂いの持ち主に敵意を抱いていない事からも、味方の可能性が高いので、おそらく増援だろうと見当づける。
よって、多由也にとっては多勢に無勢な戦況になる事は明白だった。だからこそ、降参を勧めたのである。
幻術に嵌ってしまった際も、すぐ傍まで駆け寄った赤丸がキバの足首を思いっきり噛んでくれていたのだ。
多由也には膝をついて両手首を上げているようにしか見えなかったので、足首のほうに赤丸がいる事実になど気づけなかったのだろう。
以上から、相棒に噛まれた痛みで幻術から脱け出たキバは、そのまま赤丸と共に【牙通牙】で多由也に攻撃したのである。
「もう一度言うぜ。降参しろ。そうすりゃ、命までは取らねぇよ」
再度降参を促す。降参さえしてくれれば、木ノ葉とて多由也を殺しはしないだろう。
そう思っての発言だったが、キバを多由也は憤怒の形相で睨み据えた。嗤う。
「馬鹿が。木ノ葉みてぇな甘ったれた奴らに捕まるぐらいなら―――、」
そう叫ぶなり、多由也は己の折れた得物を振り翳した。その切っ先を喉元へ向ける。
眼を大きく見開いたキバが身を乗り出した。多由也へ手を伸ばす。
「よせ、止めろ――――!!」
キバの制止もむなしく、笛の音がもう、鳴る事は無かった。
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