九十六 消し去れない過去
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るもの。だが幻術系遠距離タイプは大体において感知タイプとの相性が悪い。
つまり、感知タイプ及び接近戦を得意とするキバとの戦闘は分が悪いのである。
その上、キバは嗅覚が鋭い。だからこそ、三体の怒鬼の居場所を正確に把握し、撃退したのだ。
たとえ口寄せしたものであっても、個々の匂いというものがある。
鬼のそれぞれの匂いを嗅ぎ取って、キバは何処から攻撃が来るのかを判断したのである。
瞬く間に消えた『怒鬼』三体。
手駒を失った事実に歯噛みしつつ、多由也は秘かに含み笑った。口許に笛を添える。
再び響き渡った音楽に、キバは呆れたような表情を浮かべた。
「またソレか。もう降参しろよ。そうすりゃ、」
「馬鹿が。そんな甘ったれた考え、今すぐ捨てさせてやる――【魔笛・無幻音鎖】」
瞬間、周囲の景色がまるで水中にいるかのように変わった。耳どころか脳裏に響く音が激しくキバを攻め立てる。とても立っていられなくて、キバは膝をついた。
(……ッ!?ヤバい…こりゃ―――幻術か!?)
幻術は大体人の五感――視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚に訴えかけて嵌める。なかでも聴覚を利用するタイプは一番厄介だ。
自分の術との相性の悪さを即座に理解し、多由也はキバを幻術に嵌めたのである。いくら嗅覚が鋭くても、聴覚を支配してしまえばこちらの思うがままだ。
「良い鼻を持ってる程度じゃ、ウチには勝てねぇぜ。このクソ犬ヤローが」
多由也の暴言を、キバは遠退く意識の片隅で聞いた。ふと周りを見渡せば、水中にいるかのように波打っていた景色が変わっている。
何処からか伸ばされた幾重もの糸がキバの全身を雁字搦めにしている。
何時の間にか森ではなく、真っ赤に染まった砂漠の上で、彼は立っていた。おまけに、あちこちで骸骨が赤砂に埋もれている。
それが、まるでこれから先の自分の成れの果てを示しているかのように思えて、キバは慄然とした。次いで、己の身に起こった出来事にいよいよ顔を青褪める。
糸で吊るされた両手首。その片腕がどろりと溶けゆく様は、キバに絶叫を上げさせた。
「う、うわあぁああぁああぁあ――――!?」
現実では、ただ膝をつき、両手首を上げているキバ。だが彼にとっては、地獄のような赤き砂漠の上で、自分の身体が徐々に溶けてゆくのが現実なのだろう。
その証拠に、現実世界においても呻き続けるキバを前に、多由也は口許に弧を描いた。己の身を取り巻くように笛を吹き続ける。
「てめぇこそ、甘いんだよっ!!」
キバが放った言葉をそっくりそのまま返し、多由也はキバに近づいた。
動けぬキバが項垂れているのを満足げに見遣る。笛の音で幻術を操った彼女は、キバに幻を視せ、動きを止めて縛ったのだ。
ふと視線を落と
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