暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
孤独を歌う者 4
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。……私も、嫌だなあ。私もあなたと同じで、それをされたらすごく嫌だなあ。悲しいなあ」
「じゃあ、もう、しない!」
「ありがとう。嬉しいな。あなたがそうしてくれると、私はすごく嬉しい」

 つっても、まあ。
 子供の頭じゃ、悪気が無くても無意識に同じことをくり返しそうだけど。
 あの母親はきっと、その都度それをされると悲しいって子供に訴える。
 そうやってくり返し『何がどうしてダメなのか』を考えさせようとする。

 あの時は、すんごく面倒くさいコトしてんなあって遠巻きに見てたけど。
 今になってみるとさ。
 向き合うって、そういうことなんじゃないかと思うんだ。

 だから。



「呼んでも、良いか?」

 涙色の目が、両腕を伸ばす私を、階段の下方から見上げてる。
 最初は意味が解らなかったみたいだけど。
 少し間を置いてから、ぎこちなく頷いた。

「ベゼドラ、お前は席を外してくれ。母さんの近くに男が居ると、視覚的にややこしくなる」

 右隣に居るベゼドラの聞こえない文句は無視して、とりあえず違う空間へ放り込んでおく。
 代わりに、蒼の女神が支えてる母親……母さんを両腕の中に引き寄せた。
 自分ではちゃんと立てないのか。
 転けそうになりながら、私の肩に寄り掛かる。

「ぅ、わ……っ」

 私より少し高い背。
 女性らしい豊満さを描く体の曲線、なのに、腕は私よりもちょっと細い。
 病的に白い肌は触ると滑らかで、顔を掠めた長い髪は、途方もない年数を閉鎖空間で過ごしていたわりに傷みもなく、さらさらとして柔らかい。
 簡素なボロ着の隙間に見え隠れする跡は……
 ま、誰がどうしてたかなんて、想像するまでもないわな。
 でも、不思議と何の臭いもしない。
 生物としての要素が極端に稀薄、とでも言うのか、そんな感じ。

 この人が、アリアを産んだ母親。
 私の……母さん……

 …………めっちゃ、軽っ!

 羽毛か!?
 この体は羽毛で出来てんのか!?

「アリア……!」
「!」

 あ、そうか。
 こっちの母親は、私が『ロザリア』だってことを知らないのか。

 んー……仕方ない。
 ここで私が自己主張してても意味は無いからな。
 必要なのはそこじゃない。

 首に巻きついて震え泣く体を抱き返し、背中をぽんぽんと軽く叩く。
 少しの間そうして……それから、母さんの震えが急に大きくなる。

「……そん、な……っ」
「大丈夫か?」

 少し体を離した母さんの目を間近に覗いて、確かめる。
 顔色が最悪だ。
 薄い水色が、ゆらりと不安定に揺らぐ。
 でも、迷いは見当たらない。

「……ありがとう。もう、大丈夫。貴女が教えてくれたから、理解したわ。
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