§68 最恐にして最強
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緊張なんてどこかに飛んで行ってしまうのか。
「ならば覚----え?」
切りかかろうとした黎斗の横を掠める弾丸。あり得ないものを見た黎斗は呆気にとられて二度見する。それは茶色い物体だった。それは悪臭を放っていた。それを認識した瞬間、彼の顔が引き攣った。ドニが逃走した理由も同時に理解。戦意が急速に萎んでいく。背後に物体が着弾。展示コーナーを一瞬で崩壊させつつ弾丸は飛び散る。黎斗はそれを回避する。これだけは、絶対に当たるわけにはいかない。当たったら、死ぬ。色んな意味で。
「……マジ?」
ショックに立ち直れずに眼前を見ると、悪魔がこちらに手を向けている。彼の周囲には、水が渦巻いている。水の中には、茶色い物体と、トイレットペーパー。
「そりゃドニも逃げるわ」
なるほど。ドニでは勝てないワケだ。アレを斬りたくは無い。権能とか技術とか以前の問題だ。自分の得物に付着するとか耐えられない。中世に戻しても無意味。人の歴史に関係なく、アレは生きていくうえで欠かせないものだ。鋼の身体になる?なった日にはあれをこびりつかせる羽目になる。それだけは絶対に嫌だ。第一、戦った時点で負けの気がする。そう考えるとドニは勝利していたといえるだろう。「逃げるが勝ち」という戦法によって。
「あんにゃろう……押しつけやがったな。っーか臭い。ヤバい。無理だこれ」
彼の悪魔が汚水を展開するのと同時に激臭が周囲を包み込む。圧倒的な、他を隔絶する臭い。鼻がひん曲がる。これ以上ここに居たら自分にこの臭いが移りそうだ。そうしたらやっぱり死ねる。もうこの場にいるだけで負けだろうこれは。
「どうした、来ないのか?」
そういう悪魔の背後で汚水が勢いよく立ち上る。下水パイプが破裂でもしたのか。
「糞尿に塗れて溺死しろ」
「それだけは絶対嫌だあああ!!!」
大便の弾丸を掻い潜り、小便の雨を吹き飛ばし、絶対に触れないように細心の注意を払いつつ。黎斗は全力で逃げ出した。脇目も振らずに、恥も外聞も投げ捨てて。
「我が名は魔王、ベルフェゴール」
老悪魔の名乗りを湛えるようにあらゆる名画が喝采する。
「便器を王座とせし怠惰の魔神也!!」
彼の大悪魔の名乗りを聞いた存在は、誰もいない。
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