巻ノ二十二 徳川家康という男その八
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「これは実によい」
「甘くそして酸っぱく」
「甘酸っぱさが違いまする」
「いや、これならです」
「幾らでも食べられます」
「こうした蜜柑をか」
幸村はここでこう言った。
「徳川殿は食されておるのか」
「それはそうなんですがね」
その店の親父が幸村に応えてきた。
「実は今度の殿様はご自身が召し上がられるよりも」
「民にか」
「はい、食せよと言われるんです」
「そう言っておられてか」
「実際必要なだけ召し上がられるんです」
余分には取らないというのだ。
「そうなんですよ」
「ううむ、無欲か」
「質素なんです」
家康はそちらだというのだ。
「それに私共のことを常に考えておられて」
「それでじゃな」
「はい、この蜜柑も他の果物も」
大名だからといって余分に取る様なことはしないというのだ。
「私共がふんだんに食えといつも仰って」
「その通りにか」
「して下さっています」
「そうか、善政なのだな」
「年貢等も安く悪人は許さず」
「駿府もまとまっておるか」
「いや、今川様も武田様も善政に務めてくれましたが」
商人は幸村に満面の笑顔で話していく。
「徳川様はその方々よりもです」
「善政にか」
「務めておられます」
「そうか、道理でどの国もよくまとまっておる筈だ」
三河も遠江も、そしてこの駿河もというのだ。
「質素に徹しておられ善政を施されるのならな」
「いや、徳川様がおられてこそです」
こう笑って言う商人だった、そしてその他にもだった。
一行は駿府を巡りその様子を些細なところまで見た。そしてその結果幸村は家臣達に確かな声でこう言った。
「見事じゃ」
「はい、徳川殿もですな」
「善政に務めておられ」
「その政はです」
「実に見事です」
「まず民のことを考えておられる」
幸村は家康の政をそれだと看破した。
「それから国を富ませてな」
「法は公平に」
「そしてご自身は質素で」
「普請には篤く報いる」
「まさにですな」
「善政の鑑ですな」
「全くじゃ、この政を天下で行えば」
駿河等三国だけでなく、というのだ。
「天下は永く泰平になるな」
「ですな、間違いなく」
「そうなりますな」
「徳川殿の政をされれば」
「そうなれば」
「やはりあの方はじゃ」
幸村は家康について話した、皆この夜泊まる宿の中に入ってだった。そのうえで酒を飲み炒めた豆や干し魚を肴にしている。
そうしつつだ、こう話しているのだ。
「天下人の器じゃ」
「ですか、やはり」
「あの方は天下人になれますか」
「それだけの方ですか」
「ただの武辺の方ではありませぬか」
「徳川家は確かに武の家じゃ」
それで天下に名を知られている家だというのだ。
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