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逆さの砂時計
孤独を歌う者 3
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が、今ははっきりと残ってる。
 『あれ』ですら残していかなかった、温かな熱と感触。
 マリアがここに居た証。

「寒い」

 自分の両腕を抱えて背中を丸める。
 ここには、他に何も無い。
 マリアの体温が冷えた空気を。
 マリアの感触が一人きりの自分を自覚させる。
 ベッドに潜り込んで体を縮め、膝を抱えても、寒い。

「俺は何故あの世界に居たんだ? 神々は何故、俺を殺そうとしたんだ? 俺はどうして……勇者達と戦ったんだ?」

 『あれ』はもう、いない。
 すべてが終わったというのなら。
 新しい世界では、俺が存在する理由も、神々と戦う理由も無い筈なのに。
 俺は何故、何の為に、今も存在し続けている?

『同じ目線で、物事を見るんだ。そこに貴方が求めている答えがある』

 マリアを失うことで、俺と同じになるかも知れなかったアルフリード。
 マリアの喪失を極端に恐れていたアルフリード。
 女神を通して、自己を定めていた勇者。
 お前が強く望んでいたこと、お前と同じことをしていた筈なのに。
 答えは全然見つからない。
 マリアは俺に映らない。
 熱と感触以外、何もくれなかった。
 そしてもう、届かない。

「寒い、な」

 眠って、起きて、眠って、起きて。
 退屈を誤魔化すつもりで、人間の真似事をくり返してみる。
 そうしていると、眠りの中で勇者達の記憶が再生されるようになった。

 コーネリアとウェルスが、笑いながら子供二人と戯れていたり。
 ウェルスの軽口で、アルフリードとコーネリアが怒っていたり。
 反応に困ったマリアを、三人で笑わせてみたり。
 楽しそうだ。

 ……ああ……
 四人は、それぞれの生を楽しんでいる。
 光に満ちた世界で笑っていた。
 …………笑って、いたんだな。

「…………?」

 眠りから覚めるたびに目の端から零れ落ちる、これは何だろう?
 顔の輪郭を伝う、濡れた筋が冷たい。
 『涙』?
 俺は、泣いているのか?
 それにしては、人間達やマリアとは違う。
 俺は彼女ほど叫んだりしてないし、叫びたい衝動も感じない。
 ただ……やっぱり、寒い。

「『寒さ』、か。これも、お前が残していった熱だな。マリア」

 何をするでもなく、ごろごろごろごろ。
 眠って起きて、眠って起きて。
 再生される記憶から覚めては、顔の輪郭が濡れる。
 誰も居ない『空間』は……ああ。
 確かに、あの時と同じ。『空っぽ』だ。

「レゾネクト!!」
「マリア?」

 出ていった筈のマリアが、少しだけ成長して戻ってきた。
 何故? いや、これだけ明確な殺意を持っていれば目的は一つしかない。
 それは解る。

 じゃあ、この男は何だ
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