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第一章
人魚ではなく
長い航海だった。それも数ヶ月とかそんな単位ではない。
もう一年以上経っている。彼等はそれだけ船の上にいた。
「ねえ船長」
若い船員の一人が髭だらけの顔の中年の男に声をかけてきた。
「もう何日陸を見てないですかね」
「もう一月になるか?」
船長と呼ばれたこの髭だらけの顔の男は暫く考えてから彼に答えた。
「そういえば」
「そうですよね。一応食べ物はまだ結構ありますけれど」
「陸は見てないな」
「ええ」
そんな話をしていた。確かに周りは見渡す限りの大海原だ。群青の海が何処までも広がっている。空もまた青で所々に白い雲が見える。だが辺りは何もない。全て水平線であった。
「もうかなり」
「たまには陸が見たいものだな」
「あとどれ位で島ですか?」
若い船員はこう船長に尋ねた。
「それで」
「確か一週間か」
船長はまた考える顔になった。そうしてこう彼に答えたのだった。
「それ位このまま進めばそこに島が見える」
「島がですか」
「一応そういうことにはなっている」
こうも船員に言うのだった。
「一応はな」
「風に流されていなければですね」
「そういうことだ。おい爺さん」
「あいよ」
ここで船長は自分の隣にいる腰が少し曲がって小柄な老人に声をかけてきた。その顔は潮に焼けて黒くなっており顔は飄々として皺が愛想よい感じである。その老人が船長に応えて出て来たのであった。
「航路はいいんだよな」
「よいぞ。夜の星がそう教えてくれておるわ」
「そうか。ならいい」
船長は老人の言葉を聞いて納得した顔で頷いた。
「それならな」
「航路は星が教えてくれるからのう」
老人はここでまた笑いながら言った。
「あとはじゃ」
「これでだな」
船長は今度は自分の目の前にある大きな針を見た。それはある方向をずっと指し示していた。今度はそれを見て言うのであった。
「羅針盤もある。これも教えてくれる」
「星と羅針盤があれば全然違いますね」
若い船員は老人と羅針盤を交互に見ながら船長に言った。
「本当に」
「船に乗るからにはこの二つが必要だ」
船長も彼に顔を向けて答えた。
「この両方がな」
「ええ。じゃあ俺も」
「この二つのことは絶対に覚えておけ」
船長の言葉が強いものになった。
「いいな」
「わかりました」
船員も彼の言葉に頷く。そんな話をしながら海を進んでいく。そうして数日が経った。そうしてもう少しで陸が見えようという時だった。
「あれっ、船長」
「どうした?」
船員は陸を発見しようと海を見ているところで船長に声をかけてきたのだ。
「何か見えましたよ」
「陸か?」
「それはまだですけれどね」
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