二十六話:舞台の終わり
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故言われたのか、どうして自分にその言葉が使われたのかが理解できなかったのだ。
「な、なにを言っているんだい?」
震える声で尋ねる。こんな綺麗な、余りにも美しく過ぎる言葉は自分には相応しくない。
そんな想いが零れ落ちるようだった。
だが、少女二人はそんなことなどお構いなしに、気づくこともなく続ける。
『助けてくれて、ありがとうございました』
二人は、ただ当たり前に自分達を助けてくれたことにお礼を言っているだけだ。
だが、切嗣にとっては青天の霹靂だった。こんな言葉を言われると思っていなかった。
はやてを騙しているときに言われたものとも違う。
自分の意志で動き、言われた短い言葉。たったそれだけ。
助けてもらったという感謝の言葉。
ただ、それだけなのに切嗣の心はどうしようもなく―――満たされていた。
嬉しかった。以前に比べれば余りにも小さな行動。
それなのに、今までで一番の喜びが心を占めた。
「ああ……そうだったのか」
簡単なことだった。結局、衛宮切嗣は誰かを助けたいという願い以外は抱けないのだ。
だが、それでいいのだ。何も変える必要などない。
今も昔もこの想いに従って歩き続ければよかったのだ。
殺すという選択ではできなかった。だけど、こんなにも簡単に人を笑顔にすることができた。
これこそが、衛宮切嗣の本当に行うべき、否、行いたかったことではないのか。
「そうか……僕は―――」
自身の想いを口にしようと切嗣がした瞬間、それを遮る一際大きな拍手が聞こえてくる。
誰もが音の出所を見る。そこにはある人間のホログラムが映し出されていた。
その人間はただ拍手をし、惜しみのない賛辞を彼らに送っている。
【ブラボー! いやぁ、今宵の喜劇は素晴らしかったよ。まあ、私としては悲劇も見たかったがね、くくく!】
ホログラム越しだというのに尚映える特徴的な紫の髪。
賢者のような知的さを含みながらも、狂気を体現したかのような黄金の瞳。
賛辞を送っているというのに見る者の背筋を凍りつかせる道化の仮面のような、異形の笑み。
新たな絶望の奈落へと誘うような、歪んだ悪魔の笑み。
その名前を、顔を、切嗣は忘れることなどできない。
「スカリエッティ…ッ!」
【くく、しばらくぶりかな。衛宮切嗣】
舞台の終わりに賛辞を贈るのはいつだって観客だ。
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