6部分:第六章
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う言ってビールを若松さんに差し出した。何時の間にか南口さんは六本目も空けていた。飲むペースはかなりのものだった。
「どうですか?ビール」
「そうですね。それでは」
「頂かれますね」
「いや、実はですね」
少し苦笑いを浮かべながらも言うのであった。
「ビールは大好きなんですよ」
「そうだったんですか」
「ところがですね」
その苦笑いと共に述べる言葉であった。
「これが。飲み過ぎて」
「痛風ですか?」
「はい。その心配があるのですよ」
苦笑いの原因はこれであった。ビールが好きだとどうしてもこれから逃れることはできない。中々難しい問題である。しかもなってからでは遅い話だ。
「ですから」
「では止められますか」
「いえ」
だがそれは断るのだった。
「是非共」
「飲まれるのですね」
「はい。まあもう一本だけなら大丈夫でしょう」
半分以上自分自身に言い聞かせている言葉だった。若松さんもお酒に関しては弱いようである。
「ですから。御願いします」
「わかりました。それでは」
「はい。それでは」
「有り難うございます」
ビールの勢いもあって犬ということにしてしまう二人だった。これから十数年後絶滅した筈のニホンオオカミがこの山で発見される。世紀の大発見と謳われたが二人はそのニュースを見てほくそ笑むだけだった。その頃はもう人々の対応も冷静になっていた。二人はこのことには素直に喜んだ。何事も時期があるということだった。そしてそのことを喜ぶ人間もまたいるのだがこのことは知られることはなかった。騒ぎの影に隠れて。
送り犬 完
2008・11・17
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