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月下に咲く薔薇
月下に咲く薔薇 21.
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クワトロ…」
「その先まで言ってみろ。後で、お前の財布に思いっきり泣きを入れさせてやる」
 隻眼の友人が、クロウの話を半ばで遮った。
「別の後悔をするよりましだ」
 人目を憚る必要がないので、こちらも同じ力で受けて立つ。敢えて金絡みの脅しなどを使ったのは、焦りの裏返しに決まっているのだから。
 互いに無言のまま、視線ばかりを衝突させた。2人に横からは冬の冷気が、頭上と周囲からは陽光が体を撫でつけてゆく。
 ふとロックオンが、頬の肉を上げ左目の形を歪めた。クロウの左肩に手をかけるなり、強い握力を一瞬だけ注いで外す。
「目を閉じとくから、ガードマンの役割から俺を外すのはよせ」
「…わかった」
「その上で、タケルの話はお前が聞いてくれ」
「ああ、任せろ。そいつは俺の役割だ」
 頃合いを見計らって双方が妥協し、合意の笑みを交わす。
 これは、いよいよ効率を重視しなければならなくなった。まず、破片捜索の指揮を執っているケンジ隊長を急いで捜す事にする。
 捜索対象面積はやたら広い。が、幸いにもケンジの立っている場所は先程の会議中にあたりをつけた場所からそう離れてはいなかった。
「邪魔して悪いな」と前置きをした後、タケルの居場所を尋ねる。折角なので、彼にも昨夜のホワイト・アウトの瞬間に何かを見聞きしていないか問うた。
「いや。俺は聞いていない」その瞬間にクランと中原は連れ去られている。クロウの聞き取りにどのような意味があるのかを、ケンジはすぐに理解した。「なるほど。タケルは超能力者だ。我々よりもニュータイプに近い。その超感覚で昨夜、何を捉えているか知りたいのか」
「ご明察」とクロウは頷いた。
 クラッシャー隊の長官である大塚が、青年指揮官のケンジを採用し全幅の信頼を置くのもわかる。タケルの生まれを許し現場で共闘の形を整えた本当の功労者は、最前線を纏めるこの男だ。
「今ちょうど、Dグループが移動している。凹みを上手く避けてタケルに近づいてくれ」
「わかった」
 ケンジが指した先で、中腰になっていた5人が一斉に立ち上がり大きく背筋を伸ばす。
 Dグループというのは、クラッシャー隊隊員5人で構成されたグループらしい。全員が、同じ白い制服に黒いグローブとブーツを履いている。
 仲間の背を叩き労っているのがタケルだった。5人は足下を気にしつつ、滑走路に最も近い建物に沿って横に移動してゆく。彼等は、広い捜索範囲の中で最も陸側の一帯を任されているようだ。
 察するに、彼等の捜索対象はおそらく海風を受ける垂直の建物壁面をも含んでいる。もし、壁に昨夜の植物片が刺さっていたら大事になるからだ。
 つまり、彼等だけが水平方向と垂直方向の2面と広範囲を任されている事になる。ケンジもまた、超能力者ならではの鋭い感覚をこの現場で当てにしているのだろう。
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