月下に咲く薔薇 21.
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の印象を丁寧に付け加えた。
「ランカちゃんが来る!?」
唯一の明るい話題に、木下やさやかの表情が一瞬だけ喜色を帯びる。しかし、全てを話し終えた後の空気は、湿度の高い夜気より遙かに重くなっていた。
「何が『では』なんだよ」沈黙を破って、朔哉がげんなりと口を曲げる。「助けを求める側の力じゃないだろ。いきなりポンと陰月の光を引っぱがしてそこに貼ったんだぜ。自分で何でもできそうじゃないか。Dフォルトの突破一つが大変な俺達に、何をさせたいんだよ」
「それでも、クロウ個人への依頼ではなさそうね」と、ヨーコが彼女なりに現状を甘受する。「残された何かはニルヴァーシュにもある訳だし、私達全員でクロウやあの月を使いこなせっていう事なんでしょ。やるしかないわね」
「どうやって!?」
木下や朔哉だけでなくさやかやくららまでもが加わり、一斉に短く返す。
女性の声が発した「では」は、かなりの破壊力を伴って聴衆を動揺させている。桂とアテナの表情も硬く、アテナに残る移り香の特徴と相まって、振り払う事の叶わぬ神の手を想像しているような気がした。
神。確かに、敵を表現する為には使いたくない背筋が凍る響きだ。
元々、異界の住民として桁外れな能力を振るっているのに、神話的能力まで手に入れ、今は弱者の方でも言葉を失う程の怪奇現象を実に容易に引き起こす。その力の底なし加減を、朔哉は「では」という言葉に見ているのだろう。
月の転写をダイグレンに残しておきながら、力の振るい方は、目的地までの地図でも残してゆくような気軽さを滲ませる。相手の力は、絶大と表現してもまだ足らない。
唯一の救いは、歴然とした力の差の下でもZEXISが戦意を喪失しない事だ。
「『100の中の1』。それも、ちょっと引っかかる言い回しですね」聡明なロシウが輪の最遠部から身を漕ぎ出し、敵が選んだ表現に食らいつく。「他に、『自分も花も既に彼の一部』ですか。100は何を指しているのでしょう。沢山の人間、というより意のままにできる植物の事と解釈したら、すっきりしませんか?」
「つまり、もしかしたら人間は『彼』とその人の2人きり、って事?」
要約する葵に、ロシウが首肯した。
「断定するのは、まだ早い」ZEUTHに所属するジュリィが、先出の推理に眉をひそめる。「確かに、人間100人の総意なんて簡単にまとまるものじゃない。しかし、だからこそ現象にばらつきがある、との説明だって十分に成り立つ。ライノダモン1頭ではまだ足らず、格下のブルダモンまで取り込みにかかったり。かと思うと、ZEXISの女性2人を連れ去ったり。方針がばらばらで、まとまりを欠いた集団そのものじゃないか。助けを求める女性の行動も、そのばらつきの一部と考えれば矛盾は生まれない。最上位者として『彼』なる存在がいるのは、おそらく本当なんだろう。だが
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