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送り犬
1部分:第一章
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日本の熊は大人しいですよ」
「そりゃ北海道以外じゃ熊に襲われて死んだって話はないですけれど」
 これは本州等にいる熊が比較的小型だからである。ツキノワグマは熊の中ではかなり小さい。しかも日本の森では食べ物が豊富なこともあり滅多に人を襲わないという事情もあった。
「それでも」
「穴熊や狐は怖くないですよね」
「そんなもの怖くも何ともないですよ」
「それでは狸やむささびは」
「全然・・・・・・おやっ」
 ここで二人の斜め上を飛ぶものがあった。どうやらそのむささびらしい。むささびはさっと飛ぶとそのまま消えてしまった。木の葉の中に入ってしまったらしい。
「そのむささびですか」
「怖がっていないじゃないですか」
「そりゃこんなの慣れていますから」
 それだけ夜の山にいたことが多いということだった。
「別に」
「猿や鹿なんかは」
「ですから。動物は怖くないんですよ」
 南口さんの言葉は少し苛立った感じになってさえいた。
「別に」
「では何が不安なんですか?」
「何となくですけれど」
 それがどうしてかは本人にもわからないところがあるのだった。
「だってここは秘境ですよ」
「ええ、そう言われていますね」
 ここでも若松さんの言葉は素っ気無い。
「俗には」
「それだったら何が出て来るか」
「お化けが出て来ると言われている場所はここではないですから安心して下さい」
「妖怪・・・・・・ですか」
「はい、そうです」
 前を向きながら実に素っ気無く答えた若松さんだった。
「そういうのが出ると言われている山がこの辺りにはあるのですよ」
「随分おっかないですね」
「何でも昔に封印されたところ」
 封印されたと聞いて南口さんは一先安心したが残念なことに話はこれで終わらなかったのだ。こうした話ではよくあることである。
「ある日だけは出て来るようになったとか」
「それだけその妖怪の魔力が強かったってことですか」
「そういうことですね。ですがここではありませんので」
「別に妖怪が出るとかは考えていなかったですけれど」
「そういうものを信じているので」
「信じていないわけじゃないです」
 機嫌のいい顔ではなかったがこう答えたのだった。

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