黒に包まれ輝きは儚くとも確かに
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ただ、桔梗は二人の様子を意にも介しておらず、楽しそうに声を上げた。
やっと目の前まで辿り着い男と女に、彼女は会釈を一つ。
「夜分に失礼した。黒麒麟とは昼間に会ったがそちらは新顔じゃの。儂は厳顔、劉州牧の臣にして劉璋軍の総まとめをしておる一人じゃ。
こっちは儂の弟子である魏延。一応は劉璋軍に所属しておるがほとんど劉備軍と変わらんて。では、よろしくのぅ」
妖艶に笑いながらも、彼女は好戦的な気を瞳から溢れさせ猪々子を見やった。
一寸の内で猪々子の表情がこわばる。先ほどまで眠気を訴えていたとは思えない程に。目の前のモノの実力を、彼女は正しく理解したのだ。
「……よろしく。あたいは文醜。徐晃隊第九番隊隊長の文醜だ」
少し堅くなりながらも圧されずに、猪々子は桔梗の瞳をじっと見つめ返した。
嬉しそうに吊り上った口。桔梗の目には獰猛な色が浮かび上がる。噂に聞いたことのある袁家二枚看板の片割れ、その心力の強さに歓喜していた。
む、と眉を寄せた焔耶は、ジトリと猪々子を見据えて口を開いた。
「部隊長……なのか?」
「うん、そうだぞ。あたいはあそこに居る第四隊の隊長と一緒で部隊長だけど?」
それがどうかしたか、と第四の隊長を指差しつつ首を捻って愛らしく問いかけた猪々子。秋斗は後ろでどこ吹く風。自己紹介に関わるつもりは無いらしい。
猪々子の指の先を見て焔耶は余計に眉を寄せた。昼間に会ったことのある男が部隊長で、猪々子と同じ扱いなことに彼女は混乱していた。
「噂に聞く袁家の二枚看板が部隊長――――」
「あ! あたいのこと知ってんの!? にひひ、聞いたかよアニキぃ♪ あたいだって結構有名人みたいだぜ!」
「へー、良かったじゃないか」
「うっわ、てきとー……可愛い部下が有名だって分かったんだからもうちょっとなんかあるだろ?」
焔耶の続きの言葉もおかまいなしに、猪々子はきゃいきゃいとはしゃぐ。
客を無視するカタチになっているが、秋斗はおかまいなしに猪々子のはしゃぎに乗っかった。
「へいへい……うわー、文醜様さいこー。益州にまで名が知れ渡ってるなんてやばーい。なんかすごーい。なんかやばーい」
「ふざけんなクソ野郎! おちょくってんのか!」
「ああ、おちょくってるが?」
「く、クソ野郎めぇ……」
「クク……お前ら、猪々子が褒めて欲しいってよ!」
その合図を待っていたと言わんばかりに、遠巻きで聞いていた彼らの口が吊り上る。
一人遅れてきた隊員に掛ける情けなど持ち合わせていない、と言わんばかりに。
「文ちゃんすげー」
「文ちゃんやべー」
「いやー、マジすげーわぁ」
「マジでやべーわぁ」
「さすが文ちゃんですぅ」
「憧れちゃいますぅ」
「胸が無いけど」
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