第二百三十二話 本能寺においてその八
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「それならば」
「安心したな」
「では何があった時は」
「堺を頼むぞ」
「畏まりました」
「その様にな、ところで御主はこれまで長い間天下の為に尽くしてくれたが」
しかしというのだ。
「その褒美として禄を御主が好きなだけ与えたいが」
「それがしが望むだけの禄を」
「万石でもよいぞ、好きなだけ言え」
「それは遠慮させて頂きます」
利休は即座にだ、信長に答えた。
「以前よりお答えしていましたが」
「この度もか」
「これからもです」
「よいのか、士分にも取立て大名にもなるが」
「それがしはそれがしの道を進んでおります」
「茶道をか」
「はい、士分や大名には興味がありません」
そうだとだ、利休は信長に答えた。
「ですから」
「よいのか」
「禄につきましては」
「そのまま茶人でおるか」
「そのつもりです」
こう答えるのだった。
「それがしは」
「大名にはならぬか」
「武士にも」
「また別のものに価値を見ておるのじゃな」
「そうなのです」
「銭もじゃな」
「冨貴は嫌いだと言えば嘘になりますが」
しかしというのだ。
「それでもです」
「それも第一に求めてはおらぬな」
「そして名声も」
「茶の道を極めたいか」
「それがそれがしの望みです」
「わしが天下を一つにし永きに渡る泰平をもたらすことを望む様にじゃな」
「それがしは茶の道を求めております」
それこそが利休の望むものだった、利休はそうした意味でまさに茶人なのだ。その道を最初に歩んでもいて。
「その果てを目指しております」
「果てはあるのか」
「それもわかりませぬ、しかし」
「茶の道を進むか」
「それを目指しています」
こう信長にも言うのだった。
「ひたすら」
「わかった、ではこれからも励むがよい」
「そうさせて頂きます」
「わしもわしの道を進もうぞ」
「そうされますな」
「うむ、では堺まで達者でな」
「堺には徳川家康殿が来られますな」
利休は自分からだ、家康のことを言った。
「左様ですな」
「そうじゃ、竹千代も主従で来ておる」
「では徳川殿を祝わせて頂きます」
「その様にな、ただ」
「徳川殿は贅沢はされませぬな」
「贅沢な酒も馳走も好かぬ」
それが家康だ、それは今もなのだ。
「とかく質素じゃ」
「ですな、お茶は飲まれますが」
「しかし菓子もじゃ」
「それもですな」
「贅沢なものは好まぬ」
「出されたら召し上がられますが」
それでもなのだ。
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