番外編・弟と別れてから
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とってとても楽しい思い出のはずた。こっちに戻ったら、シュウくんのことをお姉様たちに自慢するつもりだったはずだ。それなのになぜ、いざその話をしようとすると言葉につかえ、喉が痛くなり、うまく声を出すことが出来なくなるんだろう。
「あれ……? ごめんなさいお姉様……楽しい思い出なのに……」
「比叡?」
「あのですねお姉様……私達に……私に……」
まただ。私は楽しい思い出を話したいのに、それがうまく声に出せない。喉がぎゅうっと締め付けられ、うまく声が出せなくなる。胸がチクチクと傷んで、痛くて痛くて涙が溜まっていく。
「違うんですお姉様! 楽しい思い出なんです!! ひぐっ……私は向こうでとても楽しい生活をしていたんです!!」
「比叡……」
いやだ。泣きたくない。ここで泣いたら楽しい思い出じゃないみたいだ。私は、自分に弟が出来たことがうれしいんだ。楽しい思い出として、金剛お姉さまに話したいんだ。
「違うんです! 楽しい思い出なんですって! ひぐっ……悲しくなんかないんですよお姉様!!」
「……」
「あのですね? ひぐっ……あっちで……最初に……ひぐっ……出会った子が……!」
不意に、金剛お姉様が私を抱きしめてくれた。
「私たちと離れ離れになってる間に、とっても素敵な出会いと、とても悲しい別れをしてきたんデスね比叡……」
「や、やだなーお姉様! 悲しい思い出なんかじゃないですよー……ひぐっ……あっちで……シュウくんに……ひぐっ」
―姉ちゃん!!
シュウくんの名前を口に出した途端、私の胸の中で、シュウくんとの思い出と声がキラキラと輝き始めた。私の声に紛れてシュウくんの声が聞こえた気がして耳を澄ますけど、シュウくんの声は聞こえない。
「比叡? 泣くのを我慢しなくていいんデスよ?」
金剛お姉様の抱擁は暖かく、お姉さまの声は私の耳にとても心地よく、私の胸に染みいっていく。泣くわけないです。お姉様に自慢したいことがいっぱいあるんです。
「とても大切な思い出なんデスね……」
「そうなんです……ひぐっ……」
とても大切な人が出来たんです。
「でも、その人とお別れして戻ってきたんデスね」
―イヤだ!! 姉ちゃん!!! 姉ちゃん!!! イヤだぁあアアアアアアア!!!
「辛かったデスね比叡」
金剛お姉様が、私の頭を撫でてくれた。かつて私が大切な弟の頭を撫でた時のように、優しく、だけど少しだけ乱暴に、何度もくしゃっと撫でてくれた。
「お姉様……私たちに……私に、弟が出来ました」
「弟デスか? なんて名前の子デスか?」
「シュウくんです。橋立シュウくんです」
楽しい土産話をしているはずなのに涙が止まらない。普通に話そうとしても、声が涙声になって
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