原作開始前
EP.4 模擬戦 VS 妖精の尻尾
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ラクサスの様子を確認しようと、ワタル左腕を抑えながら、観客と共に目を凝らして土煙の中を探った。
鎖のコースライン、変わり身と慣れない小細工を凝らしたはいいが左腕に受けた蹴りのダメージが重かったため、これ以上続けるのは厳しいが、さてどうか……。
そして土煙が晴れ……ラクサスは立っていた。
「っ! マジかよ……タフだな、アンタ」
「ゼェ、ゼェ……そんなもんかよ……?」
獰猛な笑みを浮かべて挑発してはいるが、荒い息と口の端から覗く赤い筋は隠せていない。大ダメージで震える足で立っているラクサスのやせ我慢を見破るのは難しくなかった。
だからといって自分の状況が好転する訳ではない。全力の一撃を耐えられた事にワタルは苦いものを感じた。
「ク。フフフ……」
にもかかわらず、左腕に力が入らなかった分、威力が落ちていたと冷静に分析しつつも、ワタルは湧き上がる高揚感に口元が歪むのを止める事が出来なかった。いや、それに留まらず笑いが漏れてくる。
妖精の尻尾に来るまでの旅の中でまともに戦った事は数えるほどしかない。襲ってきた盗賊の撃退に力を振るっていた程度で、その時だって全力を出すことなどなかった。
「ははは」
年単位ぶりに全力を振るい、己と互角以上に渡り合える者と戦える――その事が愉快でたまらなかったのだ。
これがワタルの本当の本気か。
観衆に混じって彼とラクサスの決闘を、エルザは固唾を飲んで見ていた。
自分に魔法と魔法剣の扱い方を教え、修練相手として手合わせをしていた。山賊と演じて見せた殺陣という名の一方的な戦いぶりも見た事がある。
その時に感じた透明な圧力――ワタルの清廉な魔力はエルザの心に目標として刻みこまれている。
だがそのいずれも、ワタルは真剣ではあったが本気ではなかったと認めざるを得ない。
左腕に激痛を感じているだろうワタルの顔に浮かんでいたのは痛みの苦悶などではなく、それを覆い尽くして余りあるほどの心底楽しげな喜びだったのだから。
「……」
少し悔しかった。ワタルが今まで自分に見せた事の無い表情を浮かばせたのが自分ではなかった事に。
自分の未熟さは自覚しているが、それと感情の問題は別だ。
だから――エルザは改めて、奇しくもその髪に似た色の想いを、炎のような誓いを強く心に刻んだ。
いつか必ず、お前の隣で戦える程に強くなって見せる、と。
もう切れる手札も打てる小細工も無い。
ならば持てる力の全てを真正面からぶつけるのみ。
もともとそちらの方が性に合っているのだから、望むところだ。
心躍る時間の終わりを予感して少し名残惜しみながら、ワタル
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