二十四話:存在否定
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絶叫する切嗣の姿に驚いたのは、はやての方だった。
それもそうだろう。声をかけた瞬間に悲鳴を上げられて驚かない人間など、お化け屋敷で働いている人間ぐらいなものだろう。
改めて現界を果たした騎士達も変わり果てたその姿に目を見開く。
家族としては弱々しく、どこか頼りなさげな顔だった。
敵としては、どこまでも冷たく感情のない男だった。
だが、こんな、こんな―――壊れ果てた男の姿など見たことがなかった。
「は、ははは……間違っていた。全てが間違っていた!」
間違っていた。自分の抱いた理想は間違っていたと乾いた笑い声を上げる。
自分が行ってきたやり方は間違っていた。多くの人間が救えるように少数を犠牲にした。
その犠牲に無駄にしないように残った人間からまた少数を犠牲にしてきた。
「どうして、気づかなかった? そんな方法では決して世界は救えないということにッ!」
300人が乗った船と、200人が乗った船。その船に同時に穴が開いた。
どちらを助けるか。かつての衛宮切嗣なら、いや、多くの者が300人を選ぶだろう。
切嗣は事実そうしてきた。その場だけならそれが間違いなく正しいことだ。
だが、多くの者がそこで選択を終えるのに対して彼はその後も選択を続けてしまった。
「少数だと言ってもそれを積み重ねればいずれは多数となる……」
残った300人から100人を犠牲に。さらに残った200人から70人を。
その選択を永遠に続けていけば最後に残るのは2人だけだ。
たった2人の為に498人を犠牲にする。衛宮切嗣の信念からかけ離れた結果。
だが、それこそが事実だった。そして彼は何の罰も受けずに3人目として世界に生きる。
今の今までこの狂った事実に気づくことができなかった。
余りにも人間が多いから、殺してもすぐに生まれるから気づかなかった。
「天秤の傾いた方を取ってきた。常に平等に。でも、天秤そのものが狂っていた…ッ」
衛宮切嗣という男は天秤の測り手としてその生涯を賭してきた。
その天秤も切嗣も一度たりとも間違いを起こさなかった。
だが、見落としていた。天秤そのものが―――衛宮切嗣が狂っている可能性を。
それは気づけなくて当然のことだ。何かと何かを天秤にかけるとき、自分をかける者はいない。
簡単な話だ。天秤とは自分自身のことなのだから。それを疑う者などいない。
自分を天秤にかけることができる者がいるとすればそれは間違いなく破綻者だろう。
「殺して、殺して、殺していった先に……どうして自分の姿が見えるんだ? 真っ先に犠牲になるべき僕自身が?」
築き上げた死体の山の上に衛宮切嗣という男だけが立っている。
積み上げて、積み上
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