9.姉ちゃんと共に来たもの
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ていくのが自分でも分かり、歯がガチガチ音を立てるほど身体が震えてくる。
「姉ちゃん……ッ!!」
不意に、居間の全景が視界に入った。居間の戸棚には、比叡さんがはじめてテレタビーズの試合に出た時の、満面の笑みで写っている写真が飾ってある。そしてそのそばには、僕が比叡さんにプレゼントした、『ひえい』と書かれた金属バット。
―シュウくん……気合、入れて、がんばれ……!
コンクールの日、静かに僕にエールを送る比叡さんの姿を思い出した。
「……気合……入れて……がんばれ……」
足の震えは止まらない。体中をかけめぐる悪寒も止まらない。手には力も入らない。それでも、僕はベランダの手すりに捕まって立ち上がり、震えて上手くものが持てない手でスマホを操作し、港にむけた。解像度の荒い状態でも分かる。さっきウチを出て行ったばかりのはずの比叡さんが、もう港に到着した。
「姉ちゃん……もう……」
比叡さんは海面に立ち、レ級に向かって突撃していく。比叡さんとレ級の周囲に水しぶきが上がり、冗談ではすまされない戦いが始まったことが、僕のいるベランダからも分かった。
もう一度……今度は意識して、比叡さんのトリプルボイスを思い出す。そしてもう一度、自分自身を奮い立たせる。
「気合……! 入れて……!! いきます……ッ!!!」
僕は居間に戻り、『ひえい』と書かれたベコベコの金属バットを握りしめ、ウチを出た。
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