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第一章
ウェンティゴ
アメリカロッキー山脈。この山脈は険しいことで有名である。
しかしだ。その山脈を越えなければならない時がある。それが今であった。
「頼んだぞ」
「はい」
エドワード=シモンズ少尉は上官の言葉に敬礼で応えていた。
「それでは今から」
「しかしだ」
だがここで上官は難しい顔になる。そのうえでの言葉だった。彼等は青い服を着ている。あの騎兵隊の軍服である。それを着ているのだった。
「本当にいいのか?」
「といいますと」
「今は冬だ」
季節からの話だった。
「冬に山を越えるのはだ」
「危険だと仰るのですか?」
「危険どころではない」
上官の言葉は真剣なものだった。
「吹雪だ。死ぬぞ」
「いえ、大丈夫です」
エドワードはその青い目に強い光を放って上官に答えた。その彫のある顔に見事な金髪である。若々しく精悍な顔をしている。
その彼がだ。志願してきたのである。山の向こうにいる友軍に報告しにだ。
「それどころかです」
「友軍の危機だというのだな」
「そうです。彼等にインディアンの大軍が迫っています」
彼等はその情報を聞いたのだ。それで友軍にその危機を伝えようというのだ。インディアンは騎兵隊にとってのまさに倒すべき相手だ。なお彼等にとっては敵だがインディアンにとっては騎兵隊はまさに侵略者だった。
「山を越えて」
「それはそうだが」
「それを伝えなくてはなりません」
「しかし吹雪の山を越えるのだ」
「インディアン達も越えています」
エドワードは果敢に話した。
「ですから」
「あの連中はまた別だ」
それについてはこう返す上官だった。
「あの連中はここに住んでいる」
「はい」
「地の利がある」
当然道も知っている。そういうことだ。
「だからだ。それはだ」
「我等とは事情が違うというのですね」
「そういうことだ。我等はここに来てまだ日が浅い」
これから冬が終わるのを待ってそのうえで山を越えるつもりだったのだ。実際に部隊は今の駐屯地で留まっている。しかしなのだった。
「だからだ」
「しかしこのままではです」
エドワードは上官に対して反論した。
「友軍がです」
「道も碌にわかっていないのに行くのか」
「地図があります」
エドワードは実際に地図を見せてきて告げた。
「ですから」
「どうしても行くのだな」
「行かせて下さい、何としても」
「わかった」
ここまで言われるとだった。彼も遂に頷いたのだった。これで決まりだった。
エドワードはアルプスを越えることになった。しかし上官は彼一人を行かせなかった。もう一人を共に行かせることにしたのである。
「幸いだが」
「幸いとは?」
「この
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