7.姉ちゃんの謎
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いはずだよ……ごめん父さん。
僕はベッドから起き上がり、自分の調子を確かめた。大丈夫。グラッともしないし、頭も痛くない。お腹も気持ち悪くないし、世界も回転してはいない。よし。これなら居間に行ける。まだ足に少し力が入らないけど、壁伝いにいけば大丈夫。
壁につかまりながら、なんとか居間まで来た。居間には壁掛け時計の音だけが鳴り響き、ベランダへと続く窓が開いていた。窓からは心地いい風が吹いていて、レースのカーテンを優しくなびかせる。窓の向こうのベランダでは、いつかのように比叡さんがこちらに背中を向けて、夜空を見上げていた。触れたら壊れそうなほどの脆さをたたえたその美しい後姿に、昼間岸田の家で見た『ヒエイ』のイラストが重なって見え、一瞬、僕のお腹がグリッと何かでえぐられたような感触に襲われた。でも大丈夫。だいぶ気持ちが落ち着いた今の僕なら、耐えられる。
「比叡姉ちゃん」
僕は静かに声をかけた。声をかければ消えてしまいそうな比叡さんだったが、今はそうも言ってられない。比叡さんは責任を感じているようだと、父さんは言った。なら、話をしないと。比叡さんは何も悪く無いって言わなきゃ。
比叡さんは、いつもより少しゆっくりとした動作で、僕の方を振り返った。少しうつむき気味なためか、表情が暗く元気がないように見えた。
「シュウくん……」
「姉ちゃんおはよ。心配かけてごめん」
「んーん。お姉ちゃ……私こそごめん」
あれ……なんで言い直したんだろう……
「なんかさ、私がシュウくんに触れた途端シュウくん倒れたから、何か私に関係することじゃないかなと思って……」
「そっか……」
僕は壁から離れ、ちょっとふらつきながら部屋に一つだけある二人がけのソファに座った。比叡さんも居間に戻り、その僕の前に立った。
「座らないの?」
「私が隣に座っても大丈夫?」
僕は比叡さんに右手を伸ばした。
「?」
「姉ちゃん、手出して」
比叡さんは怪訝な顔をして、素直に右手を出してきた。僕はその手を握り、今なら平気だと身を持って比叡さんに知らせた。
「ほら、大丈夫。だから座って」
心持ち、比叡さんの顔に元気が戻ったように見えた。よかった。ちょっとでも比叡さんに元気が戻って……いくら表情豊かなのが比叡さんの魅力といっても、落ち込んでる比叡さんは見たくない。
「よかった。ありがとう」
比叡さんは、少し間隔を空けて僕の左隣に座った。どうしよう。気を失う前はあんなに比叡さんに触れてほしくなかったのに、今は僕に気を使って比叡さんが距離を取ってくれるのがすごく悲しい。
「シュウくん……聞いてもいいかな」
「うん」
「……何があったの?」
正直な所、今日のことを話していいのかどうか
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