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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第130話 赤い瞳
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とも一九九八年に自殺した人物に関しては、間違いなく死後、荼毘(だび)に付されている。この状態から仮に起き上がって来たとしても、肉体の部分は既に存在していない。

 そして肉体――現在、犬神使いとして存在している肉体の部分は、人間以外のほぼ不死に近い回復能力を持つ何モノか。おそらく、その生命体の能力が、あの犬神使いが示した不死性の理由だと考えられる。

「呆れた。あんた、そんなクダラナイ理由で、詰襟の学生服なんかで戦いに行く心算だったの?」

 相変わらず、そっと抱き寄せればアッと言う間に両腕の内側に捕らえられる位置に立ち、俺の事を上目使いに見つめるハルヒ。
 彼女から発するのは、まるでごく薄い香水のような香り。タバサに感じたような、懐かしさに支配され、鼻の奥が痺れて行くような感覚に包まれる香りではない。有希や万結の、何故か心が落ち着くような物とも違う。

 嫌悪感を覚える物ではない……。しかし、何故だか胸に微かな痛みを覚えた。
 そんな香り――

「そもそも、そんな事をしなくても、あんたなら楽勝でしょう?」

 あの程度の相手は。
 俺の心の動きなど寸借する事のないハルヒ。もしかして――。いや、それは違う。一瞬、脳裏に浮かぶ不埒な予測を即座に踏みにじる俺。
 それに、昨夜の戦闘を特等席で経験した彼女ならこの結論を得て当然。素人目にも、それと分かるぐらいの差は見せつけた、と思いますから。
 もっとも、

「まぁ、そのぐらいの心の余裕は持っても良いのとちゃうか?」

 これから生死を掛けた戦いに出掛けるのやから。

「昼間の内に多少の小細工を施して置いたけど、そんな物は無効化される可能性の方が高いし」

 昼間の別行動で万結が持って来た情報のもうひとつがコレ。
 最初の自殺者、蘇芳優。東京の大学……偏差値が高い訳でもない。そうかと言って低い訳でもない、普通の私大の文系の学部に通っていた人物。但し、多少、精神的に不安定化して――常に何かに怯え、最後は「赤い瞳が――」とだけ言い残して家を出、そのまま自殺して果てた。
 ……と、まぁ、この手の事件の典型的な最初の犠牲者となる人物なのですが、彼が残した写真の中で最後に撮ったと思われる一枚。
 一九九八年にならデジタルカメラは存在して居たのですが、流石に万結が手に入れて来たのはフィルムカメラで写した一枚。但し、ピントはズレ、素人目に見ても映像的に綺麗に写って居るとは言い難い一枚だったのですが――

「――あの庚申塚のある場所に行くのよね」

 万結の持って来た写真を見たハルヒからの一言。
 そう、万結が持って来た写真にはあの庚申塚を中心にした風景が写って居たのですが、それ以外に……。

「流石に、あの白昼夢の最後に現われた赤い瞳が、ピンボケ写真とは言え
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