第6章 流されて異界
第130話 赤い瞳
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とは違う意味で静かな室内。何時も聞こえているページを捲る音と、彼女の気配を感じない時間。そんな、何故か、少し重い身体に鞭を打つかのように立ち上がり、用意してあった上着を手に取る俺。
その瞬間――
「入るわよ!」
起きて居るんでしょ?
言葉が終わるよりも前に開く襖。そう言えば、廊下に面した戸の方に鍵を掛けていなかったので、入って来ようと思えば簡単に入って来られたか。
有希や万結。それに、弓月さんがやって来る可能性があった上に、今、この旅館には他の泊り客が居なかったが故に、鍵など掛ける必要はないか、そう考えて少しばかりルーズにして居たのですが……。そう言えば、コイツが居たな。
「あのなぁ、ハルヒ。もし、俺がズボンを履いている途中だったら、どうする心算だったんや?」
但し、こいつが侵入して来ようが、どうしようが、これからやる事に変わりはない。そう考えて、言葉のみで暇人の相手をしながらも、上から順番にボタンを留めて行く手を休めようとはしない俺。矢張り、ひとつ留めればひとつ分だけ、精神的に引き締まったような気がして来る。
時刻はそろそろ夜の十時過ぎ。今年の冬至日は十二月二十二日。
つまり、後二時間足らずで古の邪神の召喚が行われる可能性がある、……と言う事。
「別に気にしないわよ。見られても減るような物じゃなし」
パタパタと足音の五月蠅い館内用のスリッパを脱ぎ捨て、そのままズカズカと俺の部屋に侵入してくるハルヒ。旅館に備え付けの浴衣に、綿入れ袢纏を羽織る姿。おそらく、既に入浴も済ませ、もう寝る準備はオッケーと言う感じか。
但し、普段と同じく、俺の都合など一切無視。コイツの頭の中では俺の基本的人権に対する考慮などほとんどなし。その辺りは通常運転中と言う事なのでしょうか。
もっとも、少々の我が儘ぐらいならそのまま流せば良いだけ。細かな事にイチイチ目くじらを立てていても意味がありません。
確かに度を越せば問題ですが、彼女の方もその辺りも心得た物で、俺に対して少しの我が儘を言うだけで、俺以外の他人に迷惑を掛ける事は余りありませんから。
「……って、おいおい。見られるのは俺の方であって、減るか、それとも減らないのかを判断するのも俺の方だと思うのですがね」
そう考え、敢えてハルヒのボケに乗ってやる俺。
それに、確かにハルヒのヤツは俺に着替えを視られたとしても平気かも知れませんが、俺の方は……別に気にしませんか。
聖痕などと言う怪しい痣が身体のアチコチに刻まれているし、少々、目立つ傷痕が残っているのも事実なのですが。
一番下のボタンを留めながら、そう思考を続ける俺。
そんな俺の正面に立ち、上から下に視線を移し、そしてまた、俺の顔に視線を戻すハルヒ。尚、この
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