第一部 悪夢 〜東方幻潜場〜
壱章 潜入
1.『スパイ生活』
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太陽が傾き、朱色に染まる幻想郷。
サワサワと葉の揺れる音が木霊する神社、博麗神社では、家主の巫女、博麗霊夢がせっせと何やら準備をしており、時折何かが崩れる音もして、訪れた人を不安にさせるほど忙しいようだ。
「おい霊夢、何してんだ」
「あぁ〜?……はぁ」
金髪の西洋少女、霧雨魔理沙に声を掛けられるや否や、トンと荷物を地面に降ろし、のびを一つして答えた。
「今日はちょっと大がかりな神様を降ろすのよ」
「なに?神様をおろすのか?食えんの?」
「魚じゃないんだから。とにかく、そういうことだから話しかけないで」
そしてまた、ぴゃーっと荷物を持ってどこかへ消えた。
「……神様を降ろす、ねぇ」
足元に落ちた落ち葉を拾い上げ、見つめながら何かをつぶやく。
「あいつが巫女らしいことをするとは、これは何か起きるな」
獲物を見つけた狼のように目を光らせ、にししと悪い笑みを浮かべて箒にまたいで空へ駆け出した。
星の瞬くその夜は月が無く、妖怪も十分に力が出ず満足に動けないため、夜行型でありながらもう寝ている。そんな時間帯に、霊夢はまだ起きていた。
「はぁ……あの神様を降ろすといつもこうなのよね……。なんか色々用意しないと降りてくれないし、降りたら降りたで妙におしゃべりだから疲れるし……」
カタンと食器を片づけ、縁側の戸を閉めようとした時である。
「っ!!」
庭に人影が見えたのだ。
妖怪かと身構えたが、人影はぴくりとも動かない。呼吸のため背中あたりがわずかに膨らんだりしぼんだりする程度である。
「……人間、ね。こんな時間に……」
一応警戒しながらそこへ行くと、一人の幼い少年が寝息を立てて眠っていた。
「見たことない服ね……。ということは、外来人かしら。でもなんでこんな幼いのが……」
へくちっとくしゃみをして気づく。今日は冷え込む、と。
とにかく外来人ならば幻想郷の巫女である霊夢の管轄なので、中に入れることにした。
「んぅ……」
「うわ、可愛い寝顔……。……これは明日も骨が折れそうね」
ため息を一つすると、少年の温もりを確認するようにして抱き上げ、中に入った。
少年の手は冷たく、胸は熱かった。
太陽が山から顔を出したころ、少年は目を覚ました。
「ん……ひゃ!?」
少年が軽い悲鳴を上げたのは、霊夢の顔がすぐそばにあったからである。全力で出そうになった悲鳴をぐっとこらえ、状況を確認する。
くるりと一周を見渡し、なるほどと頷いた。
「(僕は気を失っていたんだ。そこをこの人が助けてくれて、今に至る、と。……さて、この場所を調べよう)」
ぐっと罪悪感を噛みしめ、昂る鼓動をおさえつける。
胸が苦しく、今にも吐きそうだった。
少年は目を閉じ、再び目を開けた。
「(…
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