第二百三十二話 本能寺においてその二
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「有り難いことでな」
「帝がですか。それでは」
「幕府を開き将軍となりじゃ」
「そして太政大臣にもなられますな」
「同時にな」
「まさに足利義満公の様にならますか」
長益は長兄である信長のその話を聞いて笑って述べた。
「では」
「あの噂か」
「何でも義満公は上皇になられるおつもりだったとか」
「そうした話があるな」
「そのお考えは」
「ない」
一言でだ、信長は長益に答えた。
「わしはな」
「左様ですか」
「わしはあくまで一の人じゃ」
即ち天下人だというのだ。
「これ以上はないまでに高いな」
「人としては」
「それでそれ以上望むことはせぬ」
「時折そう言われていますが」
神にさえなろうとしているとだ、このことは伴天連の者達が特に強い声で批判さえして言っていることである。
「そのことも」
「安土城のことからか」
「はい、あの城の天主こそはです」
「神の座があるとな」
「城主のそれこそがと」
「そう思って当然じゃろう、しかしな」
それでもというのだ。
「あの天主にしても違う」
「神のおられる場ではなく」
「結界じゃ」
それになるというのだ。
「安土城は天下、その中心である都を守る城でもある」
「だからですな」
「あの城は結界なのじゃ」
「特に天主は」
「あらゆる神仏の力を集めた城じゃ」
「石垣にしましても」
「だから仏像や墓石を集めたのじゃ」
そして石垣にしたというのだ。
「その霊力を結界とする為にな」
「都を守護する為の」
「だからあの城はああしたものになっておるのじゃ」
「そこが違いますな」
「非常にな、だからな」
それでというのだ。
「あの城はああしたものになっておるのじゃ」
「兄上が神になられるのではなく」
「あらゆる神仏の力を集めておるのじゃ」
「そういうことですな」
「わしはあくまで人じゃ」
即ち一の人、天下人だというのだ。
「死んで祀られて神となるのじゃ」
「それが人ですな」
「そういうことじゃ、だからな」
「兄上はあくまで将軍、太政大臣になられますな」
「それで充分じゃ、無論上皇になるつもりもない」
足利義満がなろうと考えていたと言われている様にだ、信長はそうした考えはないというのである。信長はこのことは強く言った。
「断じてな」
「そういうことも帝はおわかりなので」
「それで許して頂いた」
幕府を開き将軍になることをだ。
「後は日が来ればな」
「その時にですな」
「わしは将軍になる」
幕府を開いてというのだ。
「そして太政大臣になるのじゃ」
「しかしその前に」
「うむ、御主もじゃ」
「はい、何かあれば」
「逃げよ」
何があろうともというのだ。
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