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海牛
4部分:第四章
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だって悪い奴はいる」
 その通りだった。どの場所にもいい人間もいれば悪い人間もいる。神もいれば悪魔もいる。彼が言いたいのはそのことであるのだ。
「そういうものさ」
「そうね。ところで」
 ここで大山田は話を戻してきた。
「どうしたんだ?」
「今見ているのだけれどね」
「ああ、そっちか」
 話は仕事に戻った。見れば大山田はその望遠鏡で遠くを見ていた。その氷の集まっている海辺を。じっと見ていたのである。
「どうだい?どんな氷だい?」
「氷じゃないみたいよ」
 彼女は言うのだった。
「どうやら」
「!?じゃあ何なんだい?」
「わからないわ。見たことがないわね」
「見たことがないのかい」
「そうなのよ。あれは動物だけれど」
 見ながら首を傾げていた。
「トドでもセイウチでもないし。あれは」
「ラッコでもないよな」
「あんな大きいラッコはいないわよ」
 こう答えた。
「何メートルもありそうよ」
「何メートル!?」
 首を傾げるヴィシネフスカヤに対して答える。
「ここからだとよくはわからないけれどね」
「何メートルもか」
「そうよ、随分あるわね」
「見てみたくなったな」
 ヴィシネフスカヤもまた興味を持った。興味を持てばいてもたってもいられなくなるのが人間というものだ。とりわけ見られるのならば余計にだ。
「よし、じゃあ私も」
「見てみるのね」
「うん。あの白い集まりだな」
「そうよ」
 念の為に聞いてきた彼に答える。
「あそこよ」
「わかった。それじゃあ」
 彼も望遠鏡を取り出して見てみる。するとすぐにその顔が強張っていた。
「まさか」
「まさか?どうしたの?」
「すぐに皆を呼んでくれ」
 その強張った顔で大山田に対して告げてきた。

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