第十一幕その八
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「僕はね」
「そうなんだ」
「先生はわかったんだ」
「どうして何年も食べないか」
「そのことも」
「わかったよ、けれど全部じゃないよ」
グソクムシさんの全てをわかったかというとです、違うというのです。
「そのことはね」
「全部じゃないんだね」
「グソクムシさんのことは」
「全部はわかっていない」
「そうなんだ」
「ある程度はわかってもね」
それでもというのです。
「全てがわかるかというと」
「そうでもない」
「違うんだね」
「そこは」
「そうだよ、誰でもその全てを理解出来ないよ」
こうも言った先生でした。
「その相手をね」
「ううん、じゃあ」
「グソクムシさんのことをもっとわかるにはどうすればいいの?」
「死んだら解剖してみろとも言ってたけれど」
「その時はそうなるのかな」
「多分ね。彼がいいって言ってるしね」
それでと答えた先生でした。
「その時はね。けれど」
「けれど?」
「けれどっていうと」
「本は一回読んだだけではわからないことも多いよ」
ここでこうも言った先生でした。
「物事だって一度見ただけではね」
「わからない」
「そうしたことも多いんだ」
「二度三度と読んで見てね」
そうしてというのです。
「わかってくるね」
「あっ、そういえば先生も」
「診察をまたしたいって日笠さんにね」
「昨日お願いしてたわね」
「そのこともあってなの」
「そう、皆をまた診察したいんだ」
一度診察してからというのです。
「是非ね」
「もう一度観て」
「そのうえでなんだね」
「皆の健康を確かめる」
「そうしたいんだね」
「そうなんだ」
「うん、そう考えているよ」
こう皆にも言います。
「是非ね」
「じゃあまずはね」
「グソクムシさんへの診察が終わったけれど」
「このことについてだけれど」
「どうするの?」
「まず診断結果から言うとね」
それはといいますと。
「至って良好、何年も食べない理由はね」
「そうそう、そのこと」
「そのことはどうするの?」
「グソクムシさん自身から食べない理由を聞いたけれど」
「聞いたことを書くの?」
「聞いたことを書くけれど」
それでもと言う先生でした。
「問題があるよ」
「問題?」
「問題っていうと」
「グソクムシ君自身から聞いたことは論文に書くとなると」
その場合は、というのです。
「その聞いたことは論文に書けないね」
「あれっ、そうなんだ」
「それはなんだ」
「そう、聞いたことは聞いたけれど」
それでもとです、先生は皆にお話しました。
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