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海牛
2部分:第二章
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ステラーカイギュウがいるというのだ」
「真っ先に絶滅しているというのね」
「間違いない」
 発言は断定するものだった。完全に。
「だから。期待はしていないさ」
「そうなの」
「そう。いたらそれは夢だ」
 こうまで言う。
「それこそロシアン=ドリームだ」
「ロシアン=ドリームね」
 今のヴィシネフスカヤの言葉には思わず笑みを浮かべた。もうウォッカが混ざって真っ赤になっている。
「そういえばロシア人の夢って何かしら」
「ロシア人の夢か」
「ええ。アメリカン=ドリームはそれこそ華やかな薔薇色の生活だけれど」
 誰もが瞬く間に華やかな表舞台で栄耀栄華を極める。簡単に言えばこうだ。どんなに貧しくとも実力と運でそれを手に入れることができる。それがアメリカなのだ。
「ロシアではどうなのかしら」
「ロシア人はあれだよ」
 彼は笑って言ってきた。
「素朴で無欲だからな」
「じゃあ華やかな生活はいらないのね」
「穏やかに家族と暖かい部屋にいられてウォッカを好きなだけ飲める」
 彼の言葉はこうであった。
「それだけだよ」
「それだけなの」
「そう、それだけ」
 にこりと笑って答えてみせてきた。
「ロシア人はそれだけで満足なのさ」
「本当に無欲なのね」
「個人としてはね」 
 また随分と引っ掛かる言い方になってきた。
「一人一人はその通りだよ」
「国だとどうなのかしら」
「ロシアという国は知らないさ」
 その質問にはとぼけてみせる。

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