二十三話:理想の終わり
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わけではない。
ただ、崖っぷちに立っていた男を、主に代わりほんの少し押してやっただけだ。
せめて、主の心に罪悪感が残らぬようにと。
「そんな……そんな馬鹿な。だとしたら、僕は今まで一体何のために…?」
意識することもなく、力なく銃を下す切嗣。
その瞳からは義務感や、強迫観念といったものすら奪われ、真の意味での空白があった。
封印を行わなければならないといった思考すら浮かんでこない。
ただ、思い浮かんでくるのは今までに殺してきた者達の顔。
「救えないと…殺すしかないと…言ってきた。それは……間違いだったのか?」
防衛プログラムとの切り離しが成功したのか、巨大な闇の塊と、光の柱が分離されるのを何も映していない瞳でただ茫然と見つめながら彼は己に問いかける。
もしも世界を変えられる奇跡がこの手に宿るなら、本物の正義の味方になりたかった。
でも、それはできないと。奇跡など宿りはしないと諦め、妥協してきた。
誰よりも彼らの救いを拒んだのは他ならぬ自分。
「奇跡などないと……起こることなどありはしないと……何人を犠牲にしてきた?」
天を穿つ光の柱から姿を現す騎士達の姿。
それは、なのは達には闇夜にさす一筋の希望の光に見えただろう。
しかし、切嗣にとっては己の薄汚れた罪を明るみ照らし出す光だった。
地獄の業火ですら生温いと思えるほどに咎人の己を焼き殺す灼熱の炎だった。
「彼らは死ぬ必要なんて……なかったんじゃないのか?」
目の前で新たな誓いだてをする騎士達は生き返ることができた。
だが、それ以外の犠牲にしてきた人達は、決して帰ってこない。
自分が無慈悲に、無感情に、殺してしまったのだから。
泣いて母の名を叫ぶ少年を。子供だけは助けてくれと懇願してくる母とその子を。
家族の敵だと涙を流しながら素手で向かってくる男を。
衛宮切嗣が殺してしまったのだから。
「誰もが死ぬ必要なんてなかったんじゃないのか…ッ」
全ての呪いから切り離され姿を現すはやて。
あの子がいい例だ。何が、死ぬしか他にない者だ。
こうして彼女はしっかりと生きているじゃないか。死ぬ必要なんてなかったじゃないか。
世界に危険が及ぶ確率以前の問題だった。
誰もが幸せであるように祈りながら自分は人を殺してきた。
いつの間にか、誰かを救いたいという原初の願いは、犠牲を減らすという別物にすり替わっていた。
「救えたんだ…っ。例え一人でも―――救えたんだッ!! なのに、僕は―――」
殺してきた。何一つ救うことなく、引き金を引く手に奇跡を宿しながら殺してきた。
理想という大義など関係ない。そもそもから行動全てが間違っていたのだ。
誰かを救いたいとうそ
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